論文の直しやらでだいぶ追いつめられていましたが、なんとか一本返事を出しました。キルギス行くまでにあと2本片づけたいんですが、とりあえず、久々のブータンいっときます。

この時の調査では、cozyのメインのお仕事はGPS観測でした。GPSはご存じの通り、カーナビなんかでも使っているアレです。アレなんですが、単体で測ると誤差が20mくらいあります。これは、衛星軌道の揺らぎとか、電波が通ってくる大気の揺らぎなんかで生じる誤差です。まぁ、きっと、米軍なんかは単体でもすっごい精度で測れるGPSを持ってたりするんでしょうが、、、(あるのかな?あるんじゃないかなぁ〜きっと)
で、どうするかというと、GPSを2台使って測るわけです。1台は「基準局」とか「固定局」などといい、動かさずに同じ所を測り続けます(ちなみに、GPSの記録インターバルは最短で1秒1データ)。この局の位置情報の揺らぎを、もう一方の「移動局」のデータから差し引けば、より正確な位置情報が得られるという具合です。ちなみに、どんな人が持っても、「美人局」などとは言いません。
ついでに書いておくと、単に引き算をするだけだと(ディファレンシャルGPS)、精度はだいたい1mの範囲に収まるくらい。GPSの信号を運んでくる電波の位相まで計算すると(干渉測位GPS)10cmの範囲で位置決定が可能となります。こんとき使ったのは高級な方の干渉測位GPSでした。
論文書くために関連サイトとかいろいろ見てみましたが、意外にこのディファレンシャルGPSと干渉測位GPSは混同されているようです。これは、日本国内では↓のような状況になっていることも関係しているのかもしれません。
さらに書いておくと、日本国内では、この基地局情報を電波で垂れ流していて、この情報を受信・処理できるGPSだと、単体でも精度のよい観測ができます(リアルタイムキネマティックGPS)。当然、ブータンやネパールでは関係のないお話ですが。

で、ベースキャンプに「固定局」をおいて、「移動局」を背負ってあちこちを歩きまくったわけです。こういう、氷河と氷河の外を分けるモレーンとかは、衛星画像でもはっきりわかるので、測っておくと後々何かと便利。

池とか湖の畔(ほとり)も測っとくと何かと良いことがありそう。鳥さんは全然興味なさそうでしたが。

前の年にも測量していて位置がわかっているところでは、30分ほど放置して測ります。干渉測位では測り初めから20分くらい時間をおくと、精度がぐっと良くなります。奥に見えているのは、トルトミ氷河のアイスフォール。

前の年までは、光波測距儀で測量していました。これは、道路工事現場とかで使っているヤツで、角度と距離を測って位置を出します。こいつは見通しの利かないところは測れないので、尺取り虫のように測点をつないでいく必要があります。という事情で、昨年まではルゲ氷河とトルトミ氷河の周辺の位置データがつながってませんでした。この時のGPS観測でようやく測量網がつながったというわけです。

で、こちら、毎度おなじみの雨量計。。。
の残骸。。。
ルゲ氷河脇に設置したヤツもしっかりやられてました。このあたりから、S君の機嫌がどんどん悪くなっていきます。。。

写真測量も試みました。→結局駄目だったけど。

左岸のモレーン上の基点から、氷河方面を眺める。ちょっと距離感がつかみにくいですが、奥の氷河までがだいたい2kmくらいあります。ちょっと先のモレーンがズルリとずれ落ちているのがわかりますか?モレーンは氷河が運んできた土砂がそのまま積み重なっているだけなので、基本的に不安定なんです。土木工学的には、これだけの湖を堰き止めていること自体がとんでもないことなわけです。

さて、日を変えて測りにいったのはトルトミ氷河。こちらの氷河湖は現在メキメキと発達中です。こういう池たち(?)の湖面の高さがそれぞれどういう関係になっているかを確かめられるのも、干渉測位GPS観測のメリットです(つまり、見通しが利かなくても、空(=衛星)が見えていればそれなりの精度で測れる)。ただし、池に降りれる場所はかなり限定されているのと、(下に氷があったりすると)けっこう危ないんですが。

この池は、トルトミ氷河の最奥部にある池。この池の高さとさっきの池の高さはどんな関係にあるんでしょうか?
日本での解析の結果(ちゃんと解析もしとるんですよ!)、池たちの高さはほぼ一定、つまり全部の池がつながっていることがわかりました。これは地下水面にたとえるとわかりやすいでしょうか。このことはですね、これらの池がつながりだすと(=池外池の間にある氷河が融けると)あっという間に巨大な湖になる可能性があると言うことなんです。
続く

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