「自転車の科学」
「ランニングの科学」
面白い本です。
一番面白いのは、著者が機械エンジニア(自動車工学)という経歴を持つこと。
これがこのシリーズの特徴です。
(村上春樹さんがトライアスロン本などをだしたら面白いだろうな......。)
ちなみに私は村上春樹さんの本は読んだことがありません。
1Q84面白そうとか聞いたので。
○「自転車の科学」★★☆(☆2つ)
けっこう内容が濃く、面白いです。
駆動効率とか空気抵抗などを、数字とデータで具体的に計算したり紹介してくれているので、客観的信憑性があります。
もちろん、データというのは客観的ではあるものの、一面的でもある(それが全てではない)という点は忘れてはいけない部分です。
だからこの本やデータをなんでも鵜呑みにしたり、拒絶する必要もないでしょう。そういう意味で工学的に読めます。
おなじ工学畑の人間としては、読みやすい本でした。
いちばん気に入った部分はスポークの強度と組み方についての記述ですね。疲労破壊の観点から、壊れないという安心(マージン)を工学的に把握して組むにはどうしたらいいかを突き詰めているので、自分で組む際にも役に立つと思います。
○「ランニングの科学」☆☆☆(星なし=70点未満)
書き出しから序盤の導入はとても面白い内容で、すんなり入っていけます。しかしその考察が途中から散漫で具体性に欠けており、期待したほどではありませんでした。検討モデルの単純化について、ちょっと無理があるなという仮定も多いです。
著者も途中からかなり苦労したかなと思います。
序盤は、「自転車では楽に走り続けられるのに、どうしてランニングだと同じ心拍を維持していても、脚がいっぱいいっぱいになり止まってしまうのか」、という、私にはタイムリーな内容から始まります。
これらを力学的にひもといていくというのが本書の中心線。基本的には「自転車の科学」と近いです。
これら考察は、比重に単純なモデルの場合はうまく解説されていると思います。
しかし単純化してしまうと生体としての意味がなくなるのではないか?という単純化もぽちぽち見受けられ、またその違いについての考察がほとんどないので、ちょっと残念でした。
検証がなされていない内容については、はっきり書かないのは科学的に正しいまとめなのですが、「これについては人間は自然と効率のいい走り方をしているのではないか〜」という、ちょっと投げやりな書き方もあり、技術者っぽくなくて残念な部分でした。
(ちなみに人の動作の多くは模倣からなっており、必ずしも最適解とは限りません。その瞬間においては最善解かもしれませんが、理想解は別のところにあったりします。これはXCスキーのレッスンで覚えたことです。)
そして問題な記述が少し。
未熟な市民ランナーでもマラソンをどうにか完走するための「サバイバルモード(著者命名?)」という設定があり、こんな工夫をしたら完走できるんじゃないか、ということが書いてあります。
この中の一つに、「骨格を頼りにして歩行のような走り方をすればいい」と書いてあります。歩行は骨格に体重を載せますから、筋力はあまり必要としません。人間の動作としてはかなり低燃費な部類です。
「この方法で走れば筋肉痛がひどくても進める」とあるのですが、個人的には、こればかりは「絶対にやってはいけない」と思います。
なぜかというと、膝関節は走るときの荷重(体重の3〜10倍)を支えるようにはできていないからです。それを支えたり、逃がしたりするのは筋肉の仕事です。
骨格に体重を載せると、たしかに筋疲労は少なくなりますが、関節に大きなダメージを与えていきます。筋肉は回復しますが関節はなかなか回復できません。
膝関節(とくに軟骨)を壊す人の多くはこういう走り方をしています。(着地時に膝が伸びている走り方)
人生最後のランニングならそれでもいいかもしれませんが、今後も走りたいのならあきらめて「ちゃんと歩いて」ください。
それでも科学的考察の入り口としてはなかなかいい本だと思いますよ。
(「どうしてランニングだと太ももが疲れるのか」の考察は、ダンシングにも応用できると考えています。)