コース上で誰かが滑走していると何となく見てしまうと思います。きれいな滑走を見ると真似して上達したいと思うでしょう。しかし見るだけで真似をするというのは大変難しいことなのです。
○スケーティングのフォームは、体のあちこちの骨格・筋肉・神経・バランスをいろいろと制御した「結果」です。似たようなフォームを形作ったとしても、実は全く異なる動作をしてしまっているかもしれないのです。
○現実的に考えて一番の近道は、誰かに教わることでしょう。しかしそれでも多くの困難があるのです。その多くは伝達の過程で発生します。伝達のエラー(コミュニケーションエラー)です。
○言葉による伝達というのはどれほど伝わるものなのでしょうか。ちょっと考えてみましょう。
「A)教える人の感覚が正しい確率」
×「B)教える人が適切な言葉で説明する確率」
×「C)生徒が教わった内容をきちんと理解する確率」
×「D)生徒が理解どおりの動作をする確率」
仮に全てが90%だとしても0.9×0.9×0.9×0.9=65.6%。コーチが体得している正しい動作のうち、わずか2/3の動作しかできないのです。
非常に優秀(A=100%)なコーチが100%の説明(B)をしてくれても、生徒が90%程度の理解度であれば(C)0.9×(D)0.9=81%の動作なのです。
それでも生徒は
「教わったことの9割はできているはずだ」と思うのです。
ものごとを伝達するとき、これだけのエラーの可能性が潜んでいます。
動作を正しく伝達し再現する、というのはとても大変なことなのです。
上の式のうち、BとCは
コーチと生徒のコミュニケーション度が深まればどんどん確率は高まるでしょう。
Dの確率が高い人は、理解したことをすぐに再現できる人です。いわゆる飲み込みの早い人、上手な人と呼ばれるのだと思います。
Aばかりは生徒はどうすることもできません。
コーチに頑張ってもらうか、別のコーチに替えるしかないのです。
○では冒頭の、人の振りを見た場合はどうなのでしょうか。
「E)滑っている人のフォームが優秀な程度」
×「F)生徒がフォームを分析する能力度」
×「G)生徒が理解どおりの動作をする確率」
Eというのは基本的に100%になることはないでしょう。優秀なスキーヤーだとしても、100%のフォームで滑走することはごくまれなことだからです。TV放送などでトップクラスの滑走を見たとしてもです。いいとこ80%どまりだと思います。
Fは非常に怪しくなります。初心者であるほど、要点を掴めないでしょう。30%もあれば良い方です。
Gは生徒によります。ひいき目に見て90%としても、(E)0.8×(F)0.3×(G)0.9=21.6%。
この程度です。正しい動作の1/5しか再現できません。
Fが50%、Gが90%のわりと素質のある生徒でも、(E)0.8×(F)0.5×(G)0.9=36.0%。1/3強です。
見よう見まねは教わるに如かず、ということです。
この考え方、計算が合っているかどうかはよくわかりませんが(笑)、そういうエラーが潜んでいるのだということを知ってほしいのです。
教わったことをうまく解釈できないときは、どのエラーによるものなのか、考えてみるのもいいと思います。