スポーツのコーチングというのは、体をどう使ったらうまいこといくのか、そういうことを教え伝えるのが基本だと思います。どこの筋肉をもっと使えとか、ここの振りをするどくするとか。
自転車で一般に良く言われるのは、「クランクが0時から3時までのときに大きい力を加える。」というもの。これは力の結果を求めているのであり、どこの筋肉をどう使え、というコーチングになっていないのです。
だからよく理解できないんじゃないかと、ずっと考えていました。
もうすこし具体例を書いてみましょう。
専門外ですが、野球のバッティングを考えてみましょう。
バッティングは飛んできたボールにバットを当てる技術(コントロール)と、当たった場合に遠くまで飛ばす技術(スイング)の2つで構成されています。(かなり乱暴ですが、ここではそういうことにしてください。)
ここではスイングについてのみ説明します。
スイングは、ジャストミートした際に長打になることを想定し教えます。(もちろん、意図的に短く飛ばすこともあるでしょうが、それは応用です。)
予備動作として体を絞る方法やスイングの角度、スピード、タイミング。これらはそのための要素です。そういうものは教えられるし、覚えられます。スピードの出し方、体のひねり方など、筋肉の使い方も適切なコーチならば、理解しやすく教えることができるでしょう。
無茶な比較をしますが、体の正面を3時、バックスクリーン方向を6時として、
「3時の位置でボールが打ち返せるよう、力強くバットを振る。」というコーチングでは、なかなか上達はしないと思います。
自転車はこういうペダリングの説明がまかり通っているのです。
どう体を使えばそういう結果を作り出せるのか。それを教えるべきなのですが、教えられるほど頭の中で整理できている人は少ないと思います。
で、私が説明できる人間だ、とはまだ考えていないのですが、いくつかヒントみたいなものが分かってきたので、書いておこうと思います。ペダリングの理解に役立てたらと思います。
「ももあげ」
今のところ一番シンプルに説明できる、キーワードです。
ももあげというのは陸上競技の練習動作の一つかと思いますが、簡単に言えばその場足踏みです。
まず、この動作を自転車に乗らない状態で説明しましょう。誤解が最も少なく説明できると思います。
・直立します。
・行進のように太ももを高く、腰-膝が水平になる程度までふとももを交互に上げます。
・この動作で使う筋肉は腹筋と腸腰筋がメインです。
・上半身は直立〜やや前傾をキープし、のけぞらないように注意します。
・膝下はほとんど無意識に動作できると思います。
・地面は必要以上に蹴りません。
・歩行運動に近いので、腰の位置も上下したりしません。
上の要素の中には、かなり重要なポイントが含まれています。
ではこの姿勢でいくつかトレーニングをしてみましょう。
・ももあげの交互動作を毎秒60〜90回にしてみましょう。(左右で1回です。)
・つぎに120回/秒くらいにしてみましょう。
・地面を蹴ってみましょう。
あえて注意事項を破ってみると、無駄な動作が多いことに気がつくと思います。いろいろなパターンを試してみて、無駄な動作を排除するよう、いろいろと工夫してみてください。
ではこの動作を自転車にまたがってやってみます。
面白いもので、ペダルとシューズを接続して回し始めると、上でやったことがそのまま自然には出来ず、いくつかの余計な動作をしてしまいそうです。重複しますが、注意点を挙げておきましょう。
・太ももの筋肉を使って膝を持ち上げるのではありません。腰周りの筋肉を使って太ももを持ち上げるのです。
・膝やかかと周辺の腱や筋肉はあまり使いません。(使うとケガをします。)
・必要以上に地面(この場合はペダル)は蹴りません(踏みません)。
・のけぞらないように注意します。(この場合は骨盤が極端に前傾することを指します。)→のけぞると腰痛になります。
自転車にまたがった瞬間に、その場足踏みが出来なくなる方、多いと思います。今まで頭の中にあったペダリングのイメージは、一度リセットしてみてください。
さて、応用です。
・サドルからお尻を上げるとダンシングになります。体の使い方(筋肉の使い方)はあまり変えなくてもいいはずです。
考察
・ご自身でいろいろと試してみて、確認しながらやってもらうと、どんな動作が必要か、どこに意識の集中が必要か、無駄な動作は何か、というのが分かってくると思います。
以前から書いていますが、踏み込みはあまり強く意識しなくてよいどころか、むしろ無駄で疲れを呼ぶというのが分かってくると思います。ももあげを強くすればそれだけ反作用で反対側の脚が無意識に振り下ろされます。それだけで十分なのです。踏みたくなったらももを強くあげる、のです。
高回転になったり、強く踏みつけるような場面になると、バランスが悪くなる人がいます。
踏み込みは体の伸展動作なので、体が伸びて浮いてしまいますから、ハンドルを引きつけて抑えなければならなくなります。しかしこれでは腕に負担がかかりますし、支点である腰も浮いてしまうと力が逃げてしまいます。
ももあげを強くした場合、腰の屈曲動作なので、体が前傾します。ハンドルに載せた腕を軽く突っ張るだけで、体の前傾は抑えることができます。ハンドルの下はバイクがあり地面がありますから、とても安定しています。屈曲動作なので腰も逃げにくく、力が無駄になりません。
「リラックスして、ももあげ動作。」
今のところ、これが一番シンプルで誤解の少ないペダリングの説明だと、考えています。(当社比。(笑))
どうでしょうか。
くれぐれも膝下の筋肉および腱を意識的に使わないよう注意して下さい。ケガします。