バリトン君とNODA・MAP「南へ」を観劇@東京芸術劇場中ホール。
野田秀樹独特のセリフ回しやスラップスティック的な展開に、最初はくすくすニヤニヤ笑っていたのですが、終盤が近づくにつれ頭が沸騰し出し、終演の折には半ば放心状態でした。
嘘の役割。
警鐘を鳴らし続ける意味。
それにからむ天皇制と被差別民の歴史。
アイデンティティの危機。
野田氏の舞台は、今までにも何本か拝見していますが、今回のこの劇は、このところ急速に右傾化を辿っている日本に対しての、野田氏なりのオブジェクションなのではないか、と思いました。
俳優陣ではまず蒼井優がすごかった。
いわゆる「美人」とか「可愛い」とかいうタイプではないのに、不思議と「ゾク」っとする何かを持っている彼女ですが、その実力は舞台でも遺憾なく発揮されていました。
それから銀粉蝶と藤木孝の「"性が混乱した」夫婦。
お笑いに陥りがちな(実際に僕も大笑いしましたが)こういう役柄を、威厳を兼ね備えた存在に昇華されていて、非常に説得力のあるキャラクターとなっていました。
そして野田秀樹。
加齢故か、昔年ほど声の通りも滑舌もよくはありませんでしたが、この畳み掛けるような展開は、彼の演出と狂言回しなくしては存在しえないもの。
このプロジェクトが彼の手によるものであることを再認識しました。
最後に妻夫木聡。
彼は本当に「愛い」。
彼が舞台に出ている間、僕は一瞬たりとも彼から目を逸らすことができませんでした。「スター」というのは彼の人のようなことを云うのですね。
そもそもこの劇は彼が出ていなかったら観に行かなかったもの。
素晴らしい時空間に導いてもらい感謝です。
しかし日本の演劇も大したものですね。
俳優陣の演技もさることながら、美術や音楽、振付やダンスに至るまで、とてもクオリティーの高いものを観ることができて、大満足でした。
たまにはストレートプレイもいいものですね。
クロージングのジョン・デンバーの"Country Road"も劇のメッセージ性と相まって、胸にグっときました。

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