《4.ミニ・クーパーとカネゴン》
透は国道69号線を走っている。ミニ・クーパーで。
こっちでは、簡単な試験で自動車運転免許証が所持できるんだ。即日交付。『英国屋』と看板に表記された自動車販売店に駆け込んだってわけさ、透は。1967年型のミニ・クーパー。淡い水色のボディ。試乗し速攻決断〜入手。試乗した時の助手席には店の担当の男。カーリー・へヤーの中性的な色男。マーク・ボラン。ミニを慎重に運転したよ、透は。だって悪夢は二度と起こしちゃぁならぬからね。驚く事にそのクルマ、新車の状態だったんだ。レストアじゃぁない、紛れも無い新車だよ、ピッカピカの。代金は・・・ゼロ円。レンタル方式なんだ。レンタル料もゼロ。借りたいだけ借り続け、飽きたら返却。クルマに限らず全てのものがレンタル方式なんだ、こっちでは。例えばレコードもコンパクト・ディスクも。それらを廻すプレイヤーから何からナニまでレンタル。無料でもらえるってんじゃぁないよ。借りるんだ。返すんだ。お金っつーもんが無いのさ、ここ『マッシュルーム王国』では。表現活動なんてもんも、そんなもんでいいのさ。大事なのは”欲しいっ!” ”使いたいっ!”なんてな衝動で充分なんだよ。心意気だけでOKさ。おいっ!そこのお前、おめぇだよっ!おめぇっ!なぁに笑ってんだぁ?「オリジナルが重要です」ってかぁ?死ぬまでやってろっ!その『オリジナルごっこ』を。ボぉケぇっ!でも、ちゃんと返せよ!影響を受けた人達に。アレを。
お金が無くっても生きてゆける不老不死のこっちでは、さすがのカネゴンだって、これじゃぁ飢え死にしちゃうってもんさ。
カネゴンが音楽好きだったかって?あいつはシンバルみたいな口をパクパクさせてバシャバシャ、シンバルみたいな音を出すらしいぜ。ウルトラ怪獣オーケストラでのシンバル担当だったって話さ。お金、喰わなきゃぁ音、カッコいいシンバル音が出ないもんね、たぶん。だからウルトラ怪獣オーケストラの出演料はベラボーだったらしいぜ。あいつ、カネゴンのギャラが飛び抜けてたって話さ。いろんなコンサート会場で出演拒否だよ。
「お金使った器材だったら最高の音が鳴るはずさ」って必要以上の大金使用で楽器を鳴らしてた、コンサート運営をしてた面々を尻目に、スピード満点ナンバーを、”怒れる若者”ってワッペンを背中やら胸やら腕やら皮ジャンパーやら寝ぐせみたいな髪型やらブーツで歩いた足跡やらに付けまくってた連中が大騒ぎしてた時代がある、あっちの世界で。そして、いろんなコンサート会場で出演拒否に出くわした、ウルトラ怪獣オーケストラみたいに。マス・メデアの情報横流しと彼等、通称:怒れる若者達に、ほんのちょっとしたマナーがあればよかったのに。
壊すだけじゃぁなんにも生まれない。壊した欠片(かけら)・破片を拾うのは自分達なんだ。
透は国道69号線を走っている。ミニ・クーパーで。
道路標識が出ている。横には男。白いジ〜ジャンに白いジ〜ンズにターゲット・マーク・ティ〜シャ〜ツ。口に花をくわえている。英国屋でレンタルしたと思われるロールス・ロイスが10メートル横の池に頭っから沈んでいる。池端にはドラム・セットがバラバラに転がっている。透は思った「ありゃぁ、きっとキース・ムーンだな」。
ヒッチハイクのつもりか?親指、上に立ててる彼の前を透はそのまんま通り過ぎてった。そりゃぁ、誰だってそうするら?友達には成りたくない。だけど、気になって気になってしょうがない奴って居るんだ、どこの世界にだってね。
道路標識には記されてたよ『パンク注意!』って。
Dへ続くよ。


《左》1977年発売、T-REXのアルバム「地下世界のダンディ」《真ん中》カネゴン《右》KEITH MOON

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