《2.十字路に立ちながら》
ギター・ケース片手に透は歩いている。
砂ぼこり舞う砂利道。舗装されてないんだ。1930年代前後の雰囲気って言えばいいのかな。透が履いてる濃茶のデザート・ブーツも白っぽくなっちゃってる。しばらく歩くと交差点に差し掛かった。男が立っている。奴も片手にギター・ケースだ。「あぁ、ありゃぁロバート・ジョンソンだな。ちょっと話しかけてみるか」。
「ヘイっ!ボブぅっ!あんたロバ・ジョンでしょ?」「おおぉぅ?確かに俺はボブだ。だがロバちょんじゃぁないぜ!」「ごめんごめん。ロバート・ジョンソンさんだよね」「なんだぁ、おまえさん俺ん名前知ってんじゃねぇか。んだがロバちょんってなんだぁ?」「いやいや、俺ん住んでたニッポンじゃぁ、省略してたんだよ、なんでもかんでも。だからあんたもロバ・ジョンって呼ばれてんのさ。あだ名みたいに。ジョンだよ、ちょんじゃないよ」「なるほどな。ロバ・ジョンってのもカッコいいな。言いやすい。その名前で活動してればよかったかな?そしたらあだ名はロンだな」「ロンん?」「省略したんだよ、ロバ・ジョンを。そうだら?ニッポンじゃ」「うひゃぁ、なんでもかんでも短くする事ぁないんだよ。ロンじゃぁロニー・ウッドみたいじゃん」「ポニー・ウッド?誰だぁそれ?ロバだとかポニーだとか、俺ん名前は動物ばっかりだな」「また聞き間違えてるっ!ロニー・ウッドだよ。ロン・ウッドっ、ストーンズの。あんたの事、大好きなバンド、ザ・ローリング・ストーンズの3代目ギター弾きだよ」「そぉいやぁ、ブライアン・ジョーンズって奴が『入国したっ!』つって俺んとこ、すっ飛んできた事あったな。ブロンドのキノコみたいな髪型で。『まず会いたかった』なんつってな。そん時だよ、初めてザ・ローリング・ストーンズって名前、知ったのは。ロニーは、そのバンドのブライアンの後釜って事なんだな?」「うん、簡単に言えばそういう事だよ。ところでボブ、あんた、なんでここに立ってるの?まさか伝え聞いてる”クロスロードでの悪魔との魂なんたらかんたら”また演ってるんじゃぁ・・・第一、ここは天国でしょ?悪魔なんか居るわけないで・・・」「また、おめぇもそんな事、ぬかしやがるのか?いったい何人目になるんだぁ?これで。いいかぁ、あんなのは作り話さ。知らん間に実話のようになっちゃってるらしいな。人間ってまったくぶざまな生き物さ。うわさをすぐに鵜呑みにしやがる。あともう一つ。ここは天国じゃぁないぜ。マッシュルーム王国さ。悪魔も居るが天使も居る。マリリン・モンモーっつー天使みたいなお姉ちゃんと待ち合わせしてんだ、俺は、今ここで」「マリリン・モンローでは・・・」。
Bへ続くよ。
1990年発売、ROBERT JOHNSONの編集盤「THE COMPLETE RECORDINGS」。

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