「やっぱ、お客様が大事だからね」
そう言いながら彼は、しわくちゃになったソフト・ケースからヨレヨレに曲がったキャスター・マイルドを1本取り出すとブルーボディの100円ライターに火を点けた。♪ぼっ!♪ まるで昭和時代のテレビ・ドラマ『探偵物語』の主人公、松田優作扮する工藤俊作がタバコに火を点ける時のような風景。歴史は繰り返す。現実でも。バーチャルでも。みんな真似をする。したいんだ。安全地帯で喫煙してたい。ぽっ。
《お客様》の事をこんなにも考えてるのに。考えてやってるのに。わざわざ。しかしながら、こっちの気持ちが伝わらない。伝わっていない模様。必死こいてシタタめたアイデアなのに。愛満載アイデアだったのに。しょうがないら。相手がバカなら仕方ない。ん?『バカに塗る薬は無い』ってか?いやいや、キミはちょっとばかし結論付けるのが早いな。インスタント・カップ麺に湯を注いで3分待たずに2分で喰ったら、そりゃぁ固いだろ?今のキミはまるでそんな感じ。ちょっとばかし間が足りないぜ!ブルースが足りないぜ!・・・ってか?無理だろ。ニッポン人のボクらにはブルースは無理さ。ブルースを感じる事はできるけど。最高のレコード達を聴きながら。
『バカに塗る薬は無い』と言われておりますが、しっかりとここにあります。あると言うべきか。なんつーか・・・アホになればいいんすよ。あなたも。バカにはアホで。ソースにはショウユで。野球にはサッカーで。カローラにはサニーで。ザ・フーにはスモール・フェイセズで。キミにはボクで。
真冬の夕暮れ時に線路沿いを歩く。JR高塚駅まで歩いてる。今日はライブがあるんだぜ。ビート・バンドの熱いギグを観にゆこう。そして音がする。近づいて来るんだ。列車が走ってくる。っぽい。ガッタガッタと走っている。っぽい。オーティス・レディングみたいに。忌野 清志郎みたいに。ってことは、まるでそれはソウル・トレインってことかい?
♪ガッタガッタ♪奴が近づいてきたよ。線路を疾走してる。等間隔の枕木を規則正しく渡ってる。まるでエイト・ビートさ。まるでモータウン・ビートさ。永遠のビートが近づいてきたぜ。来たっ。来たっ。来るっ。「パ〜ンっ!」面前で突然に音がした。濃鉛色の光りが散らばった。そんな感じがしたんだ。ビートニク世代の絶望まみれな欲望が枕木の上に寝ていたんだろう。きっと。奴がそれを轢(ヒ)いたんだろう。きっと。だって奴はいっつも暗いんだもの。だって奴はいっつも無言なんだもの。濃鉛色の光りが散らばっている。
「キミはどこに停車するんだい?どこの駅に」
「俺か?んなもん知らねーよ!どこまで続くかなんてさ。俺は俺の仕事をしてるだけさ!」
「なんの仕事?」
「お客様に荷物を届けるだけ。顧客満足が俺の使命」
奴はそう言いながら西に向かって行った。敷かれた線路の上を。
貨物列車ってのはまるでボクらみたいじゃないか。
鉛色のテレパシーと群青色のシンパシーを共に。
1992年発売、THE COLLECTORSのシングル「E.P. D.M.X. REMIX」。♪明治通りの歩道橋で待ち合わせ ビート・バンドの熱いギグを観にゆこう〜♪って唄われるのはPARTY SIDE収録『明治通りを横切って』。
2009年発売、THE GROOVERSのアルバム「ROUTE 09」。♪雑踏の中の孤独 希望と諦めの間を 貨物列車が通過 短い夏のパレード♪って唄われるのは11曲目収録『Lonesome in a crowd』。
ここ最近のボクのブームは貨物列車を見ることなんだ。待ち構えてカメラを向けるじゃぁないよ。偶然、線路沿いを歩いたり走ったりしていて、そん時に出会う彼が最高なのさ。「あぁー仕事してるね。ただ単に荷物を運ぶだけで。スポット・ライトも浴びずに。ただ、ただ、走ってる」。解かるかい?共感を覚えるんだよ!

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