何かをヤルにはナニかしらのバックアップが必要ってのは資本主義社会の現実だし。そこに“異”を唱えて、もしくは英国語で言うところの“アンチ”を絶唱して。『ネクタイ締めたサラリーマンにはなりたくねぇ』なんてな歌詞のレコードを作ったけど。案外それを買うのはサラリーマンの子供だったりするもので。
♪ジェット世代の放浪児 マッハのスピードの先で 年代物のアナキズム 真空に注ぎ込むのだ♪って64,928なキャサディ・キャサディだって独りの部屋で絶唱している。ワンマンショウ。
何かをヤルにはナニかしらのバックアップが必要ってのは資本主義社会の現実だし。だからボクもキミも、そしてアイツもそれに興味を抱く。洗脳される。「買ったほうがいいかもしれない」気分になっちまう。そしてそして『購買』を義務付けられる。知らぬ間に。
“コマーシャリズム”資本主義って名前の本体から突き出た両翼にはそう刻されてる。
いつだったか。中学一年生の頃か。
確かに今よりテレヴィジョンをよく閲覧していた学生時代(ちなみに現在42歳なボクの月間平均テレヴィジョン閲覧時間は1時間弱。その存在における希少価値加減はティラノザウルスの化石並みってか?るせぇーっ!)はそこから様々な最新情報を伝授されていた。その情報はとってもフレッシュ、まるで朝市に並ぶ新鮮野菜みたいに。登校するとそれをミックス・サラダみたいに混ぜ合わせる。その上にホントかウソか分からない級友の話をドレッシングみたいに振り掛ける。そうやって吟味していた。
毎日毎日わけ分からずTVがただ騒さくひびく。昨日のニュースなんて誰も欲しがらない。そんな感じ。
そんなある日、テレビ・コマーシャルである男に出会った。
たしかウィスキーの宣伝だったような。そしてハンサムなその男は金髪のボサボサ頭のまんまでサッカー・ボールを“どこか”へ向けてシューティング(蹴り上げて)して。シャープシューズでケリ上げろ。そしてハスキーなボイスで、セクスィーなカスレ声で、ふたことみこと喋った記憶があるんだ。彼がブラウン管の向こう側からこっち側へ向かってなんか喋った。英語で喋った。「誰だろ?でもなんかカッコいい外人だな」って思ったの。
子供の頃から成人になる頃までは女の方が男よりマセてる。大人びるのが早いんだよね。だから数日後、こんな言葉を同級生の女子から聞いたんだ「ねぇ、知ってる?ロッド・スチュアート、お酒の宣伝出てるら?」ってね。中学生のくせして『ロッド・スチュアート』なんて単語がスラスラと出てきやがった。ボクが富士山なら彼女はヒマラヤぐらい大人びてるって事さ。ボクが国産軽ワゴン車なら彼女はロールス・ロイスぐらい大人びてるって事さ。もちろん富士山も国産軽ワゴン車もサイコーだよ。単なる比較の問題さ。キミはどっちを選ぶんだって事。
成人した頃か。ロックンロールの世界に足を踏み入れてから数年経っていた頃か。
何かをヤルにはナニかしらのバックアップが必要。って事でロックに関するガイド・ブックを購入した。50年代から80年代半ばまでのオールジャンルなロック・ガイド・ブック。
ガチャガチャとテレビのチャンネルを廻して見たい番組を詮索するようにとりあえずその本のページをめくっていたら『ロッド・スチュアート』なんてな単語に目が向いた「おっ!これ見たい」って「おぉ〜これがロッド・スチュアートのレコードなんだ」って「フェイセズ?ジェフ・ベック・グループ?ふぅ〜んバンドでも歌唄ってただ?」って。ロッドとボクの正式な出会い。ナイス・ミーチュー・ロッド。
最初に買ったロッド関連のレコードはフェイセズの3rdアルバム“A NOD'S AS GOOD AS A WINK...TO A BLIND HORSE (邦題:馬の耳に念仏)”だった。選んだ理由は全く覚えていないんだ。多分、件のガイド・ブックに載っていたからだと思われる。初ロッド体験。中でも『STAY WITH ME』って曲にどエライ共感、曲調って意味だけど、を覚えた思い出が残っているよ。
着々と収集したロッド関連のレコード。1枚、2枚、3枚・・・。でもなぜだろう?そんなにドップリとはハマらなかったんだ。ロッドに限らず次から次へとレコードを集めて聴き漁りだした時期だったしね。飲み放題・喰い放題のバイキング料理をたしなんでるみたいな。とりあえず味わっておこうみたいな。そんな中、飛びっきり美味だったのがロッドのソロ3rdアルバム“EVERY PICTURE TELLS A STORY”に収録の『MAGGIE MAY』だったんだ「俺が死んだらこの曲を俺の葬式で廻してくれ。それとザ・ドリフターズの『ラストダンスは私に』もね」って当時付き合っていた女性に言ってしまったほどさ。そしてその決意は今も変わらない。
なにがきっかけだったか?レコード購入量減少姿勢に変えた事かもしれない。以前購入済みのレコードを引っ張り出してきて聴く事が多くなったって事さ。その時にロッドのレコードが《グっ》と来たんだ。ロッド熱が沸騰。時間と距離をおいて久々に聴いたロッド・スチュアート。こうして今聴くとオリジナル曲よりカバー曲の方が多いのに気付く。それも大御所な、言い方を変えると“ベタ”な、カバー選曲である。
ロッドはシンガーなんだと思う。「詞も曲も自分で作って“俺の世界”を“俺以外の世界”へ向けて表現したい」なんてな意気込みは案外少ないんじゃないかな。「好きな歌を唄いたい」って感じだと思う。ロッドはシンガーなんだと思う。
今年(西暦2009年)になって小型スクーターを手に入れた。購入するに当たっては若い頃とは違って、考えを巡らせた上で決定したんだ「今がその時だろ」ってね。
以前乗っていたバイク、アメリカン・タイプに比べ小型スクーターは小回りが利く。単なる比較の問題さ。
走り回っていたら街外れの細い路地に迷い込んだ。見ると前方にサッカーボールが転がっている。ボクはスクーターを止めた。そのボールを拾い上げる。脳内のイメージ・スクリーンにいつかのテレビ・コマーシャルでサッカーボールを蹴り上げるロッドのシーンが映し出される「なぁ〜んだ、あん時の“どこか”へ向けて蹴り上げたのはここだったんだ」
ボールを手に取り右を向くと路上沿いに建つ赤レンガ・アパートの赤壁。1メートル80センチメートルの高さにプレートが貼られている。プレートにはこう記されている。《GASOLINE ALLEY》って。
やっとそこに辿り着いたんだ。
1970年発表、ROD STEWARTのアルバム“THE ROD STEWART ALBUM”。
1971年発表、ROD STEWARTのアルバム“GASOLINE ALLEY”。A面1曲目に『GASOLINE ALLEY』収録。
1971年発表、ROD STEWARTのアルバム“EVERY PICTURE TELLS A STORY”。B面1曲目に『MAGGIE MAY』収録。
1972年発表、ROD STEWARTのアルバム“NEVER A DULL MOMENT”。
1974年発表、ROD STEWARTのアルバム“SMILER”。
2004年発表、THE HIGH-LOWSのシングル“荒野はるかに”。B面2曲目に『64,928-キャサディ・キャサディ-』収録。マーシーのヴォーカル曲。マーシーのソロ2ndアルバムには『ガソリン・アレイ』のカバーも収録されてるんだ。

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