Gより
平成21年1月の事だ。
山田と川村の小学校6年生時代のクラスの同窓会が開かれた。浜松駅より西方1キロメートルに存在する老舗ホテル・地下にあるレストランで。長い期間、商い上手なやり口で客をその気にさせてきたそのホテル。そいつは建造物もデカい。まるで実績を残した年配の人物が偉そうな態度を取るように。そしてみんなそこに集う事でちょっとだけ背伸びした幸福感を満喫するんだ。まぁ、いいんじゃない?庶民的で。
川村は年末年始の休みでも3〜4日ぐらいしか浜松に滞在しなかった。付き合いのような用事がないのだ。高校生ん時は進学校だったせいもあり同級生はほとんど進学してチンジリバラバラに浜松を離れていたし。連絡を取り合う仲間もいないし。23〜4歳の頃に行われた高校時代の同窓会ん時もそこそこ面白かった程度である、川村は。温度差を感じてしまったのである、昔は同級生であった一般的な周りと。
温度差。それは暑い寒い、熱い冷たいの問題ではない。
一般的。それは多数決の問題である。
川村はホテルの玄関をくぐると案内板に従い左に折れてレストランへの階段を降りていった。指図に従え。それは決して悪い事ではない。服従しながらベロを出す。ゲット・オフ・オブ・マイ・クラウド。ザ・ローリング・ストーンズ。
老舗ホテルの貸切状態な地下レストランで始まった同窓会。何十年ぶりかで顔を合わせた旧友の皆様方。初めのうちは勤務中に交わす社交辞令のような取って付けた挨拶をお互い交し合っていたが時間が経ち誰かが話し始めた当時のネタをきっかけに昔話に花が咲き出した。思い出話にうなずき合った。第三者には「ふう〜ん」な出来事も当事者達には「あはははは」な物事なんだ、思い出話ってやつは。もし第三者をも惹きつける話術を持ってるんなら今すぐ噺家になりゃいいよ。漫談でこのたいくつな世界を笑いで埋めてくれ、できるもんなら。
「川村君でしょ?」
そんな中、川村に声を掛けてきた女がいた。大場という女性である。頭がよく、小学校時代も何度か川村と一緒にクラス委員をやったりした女性だ。たしか中学校時代は吹奏楽部でクラリネットを担当していたはず。そして可愛い顔立ちだったから人気があった。男子からだけではなく女子からも慕われていたのは奇跡である。古今東西の歴史を振り返ってみたって、容姿端麗な人物が異性だけじゃなく同性からも慕われているって事はスゴイ事なのだ。解かるかい?ポルトガル語を話すブラジル人とスペイン語を話すペルー人、オランダ語を話すベルギー人、ドイツ語を話すオーストリア人、アラビア語を話すモロッコ人、ビルマ語を話すミャンマー人、フランス語を話すニューカレドニア人、スワヒリ語を話すケニア人、コックニー訛りのカナダ人、博多弁でしゃべるハママツ人、それぞれ1人ずつが同時に話す事を聞きながらそれぞれと会話するぐらいスゴイのだ。なんてったって聖徳太子以上なのだ。
ストレートで肩に掛かるぐらいのミドル・ヘア。薄い化粧を施した顔で口元にミツバチの羽音ぐらいな僅かな笑みを浮かべて川村の顔を見ている。
カワイイものはいつまでもカワイイし。良いものはいつまでも良いし。
写真集の中のアイドルみたいに。レコードの中のロックンロール・バンドみたいに。
川村の記憶ん中の大場嬢は20数年後も大場嬢だったのさ。
Iへ続く
1966年発表、THE ROLLING STONESのアルバム“BIG HITS[HIGH TIDE AND GREEN GRASS]。B面2曲目に『GET OFF OF MY CLOUD(一人ぼっちの世界)』収録。
そのジャケット内側。この写真を撮った後に思い出した!ブライアン・ジョーンズのブロンド・ヘアー写真あるでしょ。この写真にガビーん!ってヤラレテしまって。カッコよすぎて。んでどうしたかと言うと、後日このレコード・ジャケットをそのまんま美容院に持ち込んだのさ「この写真みたいにして下さい」って言ったのさ、美容室のお姉ちゃんに。

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