スージーは危険な女。
ポータブル・テレフォン(携帯電話)なんていう瞬時にお互いの状況・情報を確認しあい次のアクションへの意見交換を容易にする(そしてそれはプライベートという個人的な世界・空間・時間・スペースを一方的に荒らしまわる)文明器がこの世に存在し始めるず〜っと前から気に入った男を目ざとく見つけると彼女自身が所持するレーダー(怨念?)で彼をスパイし彼女自身が所持する彼女のホット・ラインを使い彼が持つ彼のヘッドフォンを通じて唄うのであった、アメリカのパンク・グループ、ラモーンズが1976年に発表した1stアルバムのA面4曲目に収録されている“I Wanna Be Your Boyfriend”を♪I Wanna Be Your Girlfriend♪って唄い変えて。♪Baby Maybe I Love YOU♪とも唄ったっけ。
またもや一人の男が落ちてしまった。彼女、スージーの手練手管で落ちてしまった。そして今度はこんな歌だ♪Kiss Me Quick♪早くあたしにちゅ〜してぇ〜なんて・・・なんてフシダラな・・・でも可愛い声だからそれを聴いた世の男共は許してしまった、それを。
さてその男。しがないギター弾き。チューニングが狂ったような歌を唄う。マネージャーはオダテるがお客は正直だ。ある日のGIGの時など「金返せ〜っ!」と怒号が起こったほど。
二人の終わりが来るのは早かった。現実は映画のようにはいかない。映画のワン・シーンなんてその映像を観客の記憶組織に永遠に記録させるために仕組まれたもの。記憶ではない。記憶のように記録されているのだ。そこには戦略も含まれているのか。
いつしか“デッド・ギター”とあだ名されたそのしがないギター弾きは女の元を去った。スージーから離れるしかなかったんだ。【サンデー・ライブ】なんていう当たり前すぎるネーミングな町内公民館での(結成数ヶ月の高校生バンドも居たぐらいさ)日曜日のライブを終えるとその男デッド・ギターはギターケース片手にアパートを出た。雨が降ってきた。傘も持たないデッドは小走りに単線の国有鉄道の駅を目指した。ふいにデッドの口からメロディーと歌詞がこぼれる。
♪そうさ涙は禁物さ まだ俺達は終っちゃいない ブルーなしめった空気にはもってこいの言葉だぜ グッドラック♪
その晩、デッドは冷たい雨の駅にたたずみ次の汽車を待っていた。ワン・ナイト・スタンド。
場末のボーリング場に隣接されたゲームセンターにスージーは居る。
【無法の世界とたいくつな世界】と題されたピンボール・ゲームに興じる彼女。
「あたしはあんたの空っぽの世界がみえる。そこに入り込む事だって抜け出す事だってできる。気分次第で何だってできるのよ」
そぉスージーは呟くとゲームセンター入り口から入ってきた長身細身、皮ジャケッツ皮パンにサイドゴア・ブーツの黒サングラスを掛けた男に近づいた。唄う♪I Wanna Be Your Girlfriend♪
スージーは危険な女。
1980年発売、シーナ&ザ・ロケッツのアルバム『チャンネル・グー』表ジャケットは鮎川 誠。
裏ジャケットはシーナ。
インナースリーブ、左:浅田 孟、右:川嶋一秀
A面1曲目“ホット・ライン”2曲目“マイ・ボーイフレンド”3曲目“アイ・スパイ”4曲目“デッド・ギター”5曲目“キス・ミー・クィック”6曲目“スージー・Q”B面2曲目“たいくつな世界”3曲目“グッドラック”4曲目“ワンナイト・スタンド”5曲目“ベイビー・メイビー”収録。
前作『真空パック』A面1曲目“バットマンのテーマ”終了後に小さな、ホントに小さな音で聴こえてくるギターの音は実はこの盤の“たいくつな世界”のイントロ。
ある機会があって【長身細身、皮ジャケッツ皮パンに黒サングラスを掛けた男】にこの事を訊いた。「あれって“たいくつな世界”のイントロでしょ?なんで2ndに3rdの音が入ってるの?」彼はボクの手を取って握手をしてきた。まるで「よく気付いてくれたっ!」って言わんばかりに。「一緒に録ったんよ。バットマンに続けてたいくつな世界を。それをちょっとでも記録に残しておきたかった」。

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