千葉の銚子電鉄の存廃問題について、あるメディアからコメントを求められましたので、意見をまとめてみました。
AllAboutNewsDig「ぬれ煎餅だけでは走れない銚子電鉄」をご覧ください

鉄道ファンのみならず観光客にも人気のある銚子電鉄が大ピンチに直面している。車両の修理代が出ない、老朽化した施設の補修費の当てがつかないというものだ。
この問題は、今に始まったことではない。少し前にも、やはり電車の修理代が工面できなくなった。その時は、悲痛な社員の叫びで、ネットを通じて名物「濡れ煎餅」を大々的に販売し、全国から寄せられた暖かい注文で何とか急場をしのいだのである。

↑濡れ煎餅と並んで人気のタイ焼きは、観音駅で販売中
こうした懸命の努力をしているにもかかわらず、国土交通省の「客の乗っていない電車を副業で走らせるのはおかしい」とのコメントは、暴言とも受け取られかねない突き放した冷たい表現である。元はと言えば、国の交通政策のありかたが、モータリゼーション偏重にすぎ(と言って悪いなら、地方の鉄道に冷たすぎ)、その結果として招いた苦境であるといっても言い過ぎではないだろう。
確かに、ローカル線の中には、残念ながらどう考えても使命を終えてしまって廃止やむなしという路線もあろう。しかし、工夫次第では、地域のみならず観光資源としても充分やっていけるし、逆に地域活性化に役に立つ路線も多いのだ。廃止するのは簡単だが、一旦レールを剥がしてしまえば、復活は極めて困難になるし、鉄道を廃止したのを契機に、ますます寂れてしまった地域も後を絶たないのが実情である。
同じ千葉県にある第三セクターのいすみ鉄道も、数年前、廃止は時間の問題と思われた。しかし、公募社長を中心に奮闘努力し、魅力ある観光列車を運行するに至り、息を吹き返したのだ。いすみ鉄道は、沿線に人気あるメジャーな観光地がないにもかかわらず再興を可能にしたのだから、有名観光地犬吠埼が沿線にあり、すでに鉄道自体が観光の目玉となっている銚子電鉄を存続させることが無理なことだとは思えない。

↑犬吠駅は観光地の玄関駅らしく華やかな南欧風のたたずまいだ
最大のネックは資金である。乏しい財政の銚子市が及び腰なのは、ある意味理解できなくもない。最大6億円のカネが必要と聞くと、そんな巨額の税金を赤字ローカル線につぎ込むのは無駄遣いとの意見も数多く出てきそうだ。しかし、別の発想もある。
例えば、高速道路をたった1km造るのに最低でも50億円国費を投入しているときいて、どう思うだろうか?銚子電鉄の運営距離は7km未満だから、もし同じ距離の高速道路を建設するとなると、最低でも350億円は必要なのだ。かように巨額の予算を必要とする高速道路を各地で相も変わらず建設しているにもかかわらず(その中には採算が疑問視されているものもある)、その一方で、桁違いに少額な出費で済むローカル鉄道救済に関して実に冷たいのである。お金の面でも、実は安上がりな鉄道を、もっと見直してもいいのではないだろうか?
また、鉄道がバスとの競争に負けているという話もよく耳にする。確かに、バス会社はどんどん快適な車両を投入しているのに、赤字の鉄道は旧態依然とした鉄道ファン以外には見向きもされないような車両を走らせ、一般客から敬遠されている。
しかし、鉄道とバスでは公平な競争はなされていないのだ。なぜなら、鉄道会社は車両のみならず、線路などの施設も自前で維持管理しなければならないのに、バス会社は、走っている道路に関してはタダ同然で利用していて、民間企業なのに、この部分に関しては、国におんぶにだっこの状態だからだ。
これでは、対等かつフェアな競争とは言えないではないか。やはり、諸外国や国内の一部の鉄道ですでに行われているように、線路などのインフラは国や地方公共団体が管理する上下分離方式を大々的に取り入れるべきであろう。銚子電鉄もこの方式を望んでいるが、地元に任せるだけではなく、国が資金援助するシステムを法制化してもいいのではないだろうか。
日本は、世界的に見ても有数の鉄道先進国である。しかし、それは技術的なことだけであって、鉄道を国の交通体系の中でどう活かしていくのか、とくに地方の鉄道をどう維持していくのかという面に関しては、先進国の中では冷淡に過ぎると思う。ひとつには、新幹線や都市鉄道が、世界にもまれにみる黒字を出せる体質であるので、それに反して落差の大きな地方鉄道をお荷物扱いしている風潮、赤字を出す鉄道は、事業として「失格」だとの「思い込み」があるからではないか。
欧米先進国は、日本以上に車社会であって、鉄道は、幹線や都市鉄道であっても苦しい経営を強いられている。従って、鉄道経営は儲かるものと思っていないようだ。それでも、総合的に見て、鉄道は社会に必要だとの認識があるからこそ、税金を投入しても維持しているし、近年では積極的に投資さえしている。僻地のローカル線であっても、低床式のバリアフリー車両を走らせ、本数も、極限まで減らすようなことはしていない。社会インフラとして、公民館、図書館、エレベータと同じような考えで運営している(国や地域によっては、鉄道運賃を徴収していないところさえある)。それぞれの施設が「儲からなければ廃止だ」などと言わないのと同じ考えを鉄道に対しても取り入れている。
ましてや、高齢化でクルマに頼り過ぎない社会を構築しなければならない今、老朽化した鉄道をリフレッシュして多くの人に使えるように財政的援助を与えるのは国の役目でもあろう。もちろん、鉄道事業者が企業努力をし、観光鉄道ならば、魅力的な車両を導入するといったアイデアを出すなど集客に努める必要があるのは言うまでもない。
以上のことからも、資金面の理由だけから、銚子電鉄を廃止にするようだと、これは実に情けない話であり、社会の損失だと言わざるを得ないであろう。

↑駅構内で休んでいる引退した旧型車両
<参考>
銚子電鉄については、拙著「
駅を楽しむ!テツ道の旅」(平凡社新書)もご覧ください。

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