先日、産経新聞で列車の写真を撮影する趣味のいわゆる「撮り鉄」問題についてインタビューを受けました。それが記事になったのを契機ににわかに世間が騒がしくなってきましたので、ここでもう一度、私なりの意見をまとめてみました。
まず、「鉄道ファン」について。
鉄道ファンと言っても、様々な趣味行動があります。かつては、あまり世間で認知されていませんでしたので、写真を撮る「撮り鉄」、列車に乗って楽しむ「乗り鉄」、切符や時刻表など様々なグッズを集める「収集鉄」、模型制作や収集、運転を楽しむ「模型鉄」などがあることを紹介してきました。これらは、行動パターンですから、ある人がどれに属するかといったことは問題ではないのです。乗り鉄専門もいますし、各ジャンルを掛け持ちして愉しんでいるファンもいるので、それは人様々でしょう。あくまで、鉄道に関心がない人のために、ファンはどんなことをしているかという「案内」なのです。
さて、「撮り鉄」についてです。

↑本格的な「撮り鉄」は、大自然の中で整然と並んで列車を迎える
そもそも鉄道写真、とくに列車の走行写真を撮影するということは、難しいものです。それなりの「修行」が必要です。技術的な面だけではなく、構図的なもの。いわゆる絵になる情景を求めて、ファンは撮影場所を探し求めるのです。ところが、オートフォーカスが一般的になり、デジカメが普及し、近年は携帯、スマホ、タブレットと誰もがカメラを持てるようになったことから、「撮影」ということが極めて日常的になりました。写真愛好家のすそ野が広がったとも言えます。
加えて、ここ数年の鉄道ブーム、列車の写真を撮ることは、花見やお祭り、各種イベント同様、決して特殊なことではなくなったのです。また、鉄道会社も営業政策でSL運転をはじめ、様々なイベントを行うようになりました。かつては、一部のファンしか知らなかったような情報もネットでまたたくまに広がり、多くの人が身近なものと思うようになったといえるのです。そのため、人出が増え、混乱するようになったといえます。
これに関して、かなりの数の「筋金入りの鉄道ファン」は、うんざりしている面があります。なるべく人が集まらない、隠れた「撮影名所」を探し、あるいはイベントの本番を避け、人知れず行われる「試運転」に駆けつける、など工夫しているのです。混雑した駅のホームなぞ、人ごみを写しにいくようなものですから、極力避けます。
元々、列車の走行写真を撮影するファンは、駅撮りを嫌います。バカにする傾向すらあります。人間以外にも駅周辺は信号機や諸々の施設が多く、撮影に関してはすっきりした写真が撮れないからです。
また、高速で走る列車をぶれないで撮るには、一眼レフ以上のカメラが必要です。コンパクトカメラや携帯などでは、思うような写真が撮れるわけがないのです。ですから、ホームの、それも人が一杯いるところで、携帯を高くあげてシャッターを押して興奮している人々を見るにつけ、一体何を写しているのだろうと不思議に思うのです。それと同時に、そういう人たちと一緒にして欲しくないと思わざるを得ないのです。

↑ホームで撮る人たち
高速で走る列車を撮るときは、近づきすぎると危険なのは当たり前です。それと、列車の編成を綺麗に入れて、背後の景色も写し込むとなると、それなりに一歩引いて撮るのが当然となります。また、同好者が集まれば、一人でも多くの人が撮影できるよう譲り合うためにも近づきすぎないよう気を配ります。
ところが、最近、どうも長年ファンが築いてきた「暗黙のルール」を守らない人が増えてきたような気がします。それは、こと鉄道ファンに限ったことではありません。例えば、観光地での記念撮影。カメラを構えている人がいれば、その背後を通り抜ければいいのに、知ってか知らずか、平気で前を通ってシャッターチャンスを妨げる人、逆に大勢の人の通行の邪魔になることが分かっていて記念撮影を長々とする人たち。ちょっとした気配りに欠けている人があまりにも多い様な気がしてならないのです。
以上から、撮り鉄問題は、単に一部の「鉄道ファン」の問題とは思えません。メディアは、鉄道写真を撮る人=鉄道マニアという図式で報道しがちですが、ちょっと短絡的すぎますね。もちろん、鉄道ファン全員がマナーを守っているとは思いません。哀しいかな、無法者のようなマニアもいます。しかし、逆に言うと、どんな分野でも、職業でも、残念ながら例外的な不法行為に走る不届き者はいますね。それをことさら、○○○は悪い、と決めつけるのはどんなものでしょうか?一握りの非常識な日本人が海外で論外な行動をして、だから「日本人は悪い」と外国のメディアが決めつけるようなものではないでしょうか?
犯罪行為は許されません。しかし、それは、個別に裁くこと、非難することであって、鉄道ファン全体を非難することとは違うのではないでしょうか? また、危険個所、安全が保てそうにない個所を立ち入り禁止にすることはやむを得ないでしょう。本当の鉄道ファンは、そうしたことまで考えた上で撮影場所を探すものなのです。雑誌やブログで見たからといって、安易にひとつの場所を「有名」にして、出かける人が多すぎますね。趣味というのは、手間暇かけて造り上げていくものなのです。
ところで、撮影に夢中になると、機材も重くなることから、クルマ移動が原則で、列車には乗らない、という「撮り鉄」がいることは事実です。だからといって、鉄道ファンは、鉄道会社にとって良いお客さんではない、と決めつけるのは筋違いです。
先ほども言いましたように、鉄道ファンといっても様々です。時には撮影、時には乗車と楽しみ方も多様です。もちろん、お金のない学生やフリーターの鉄道ファンは、青春18きっぷなどの格安きっぷを愛用しています。私もシーズンには使います。しかし、ヘビーユーザーですから、当然正規料金を払って乗ることも多くなります。また、それほどお金持ちではなく、普段は安く乗っているファンても、体験乗車としてグリーン車に乗ったり、豪華寝台列車を使ったりするのです。イベント運転で記念乗車券を売っていればついつい買って、鉄道会社の商法に乗っかってしまう、そういうファンは案外多いものです。
安い切符を使うというのは、鉄道ファンだけのことではないですね。デフレが長引いてきましたから、誰もが安さを求める風潮が続いています。格安きっぷは、ある意味世間の流れです。第一、鉄道ファンでなければ、鉄道を使うという選択肢はありません。高速バスやLCC(格安航空)が世の移動手段の主流ではないでしょうか。そんなときに、安い鉄道切符を使う。とにかく、列車を利用するというのは、ある意味、鉄道会社にとっては上得意の客以外の何者でもありません。
これほど、世間では鉄道がメディアの話題になっているのに、ひっそりと消えていくローカル線が後を絶ちません。目立つイベント以外では鉄道に目を向けない人が多いから、結果として空気を運ぶような列車が増えてしまうのです。しかし、筋金入りの鉄道ファンは、地味だけれども普段着の列車を静かに見守っています。ギャラリーが殺到しないひっそりと走るローカル線や普通の人が話題にしないような大都市や幹線の地味な列車にこっそり乗ったり撮影したりしているのです。
殺気立つこともなく、のどかな大自然の中で、のんびりと普段着の地味な列車に乗ったり撮影したりして、慌ただしい日常から離れてリフレッシュする。ゆったりと過ごすという心豊かな気持ちさえあれば、変なトラブルは起きないようにも思うのです。

↑普段着の列車が静かに走る。周りには誰もいなかった・・・・。函館本線大沼公園付近にて

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