バンドのメンバーとステージ衣装のことについて話し合っていた。
「ケンはもう少しカッコよく決めろ!ジュディーはもっと過激に、河野は頭にタオル巻くのはやめてくれ」。リーダーであるオレからの進言。
3人はなにやら2階のオレの部屋で話し合っていた。裸電球の
オレンジ色のゆるい光が彼らの背中を照らしている。
あたりはもう暗く、網戸の外からは
“かえる”の鳴き声がダイレクトに入ってきた。
新聞紙を丸めた音のような彼らの話し声。3人の中の代表格であるケシが満足そうな顔つきでオレの目に笑いかけ言った。
「着替えるからまってて・・・」
オレは頭半分を覗いていたドアから引っこ抜き、川原へと足を向ける。
うっそうと木々が生い茂った
獣道に、履き慣れた安全靴の砂をかむ音がまるで新雪を踏み固める音の様に聞こえてくる。
川原の向こう岸にたどり着くとライブハウスの控え室。タバコの煙のカーテンをかいくぐると、メンバー4人が
無節操な色の“ハッピ”を着てニヤニヤしながら立っている。
目を剥きながらケコが開口一番
「いいでしょ!これ!」
他を見渡すと、ジュリーの長身にはあきらかにつんつるてんのサイズのハッピを、鏡越しに背筋を伸ばしながらポーズを決めている。河嶋なんかはすでに頭にねじり鉢巻をしながら一杯やっている。おそろいのハッピはもうすでに肩の辺りからはだけている。
・・・なんだこの集団は・・・これからライブなのに・・・
オレは体中の血液を顔一杯に凝縮して
脳は沸騰し、頭皮からその湯気がシャワーの如く吹きだし鼻から“やかん”が沸騰したキテルの音が
「ピィィィーーー!」とけたたましくなっていた。
あわてて両手で鼻を押さえメンバー5人にありったけの声で叫ぶ。
「全員クビー!!!」
目覚ましと自分の
声、同時に起こされた。

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