ちょっといい話・・・みっけ!
「ウサギとカメのその後の話」
by 阿部千夏
僕は、ウサギの「ピーター」 。
僕の自慢は、真っ赤なかわいい目と、誰よりも、遠くに飛べるジャンプ力さ!!
この辺りじゃ、野山を走らせたら、僕に勝てるやつは、誰もいないんだ。
そんな僕の友達は、カメの「ごん太」。
ごん太は、いつも、とってもゆっくりゆっくり、歩くんだ。 僕とは、大違い。
そんな僕らは、今では、大の仲良し。
今ではって?そう、昔はね、そうじゃなかったんだ。
いつも、のろのろ歩いているごん太と僕は、ある日、 山の頂上まで、どちらが先に行けるか、競争する事になった。
僕は、<のろま>が、嫌い。 だから、ごん太の事をよく、<のろま>って、からかってたんだ。
そしたらさ、「それなら競争しよう」って、ごん太が言ってきたんだよ。そんなのやる前から、僕が、勝つに決まっている。
よーい、ドン。
僕は、風を切って、走り出した。
もうすぐ、頂上と言うところで、僕は、ちょっと昼寝をした。
どうせ、ごん太は、まだまだ、来やしないんだ。
どのくらい、たっただろうか。
ふと、目が覚め、上を見上げたら、そこには、Vサインをした、ごん太が立っていた。
僕は、家に帰り、悔しくて悔しくて、ママに、こう言った。
『本当は、僕が、勝つはずだったんだ。うっかり、昼寝なんかしてしまったけど、ちゃんと走れば、僕の方が、速いんだ。あんなのろまに、負けるはずない。』
『そうね、ピーター。それで、あなたはどうしたいの。』
『明日、もう一度、ごん太と、勝負する』
僕は、ごん太ともう一度、勝負した。今度は、もちろん僕が、勝った。
『どうだい。僕の速さが、分かったかい。』
僕は、そう言って、ごん太にむかって、Vサインをした。
ごん太は、ついたら、きっと悔しがるに、違いない。
そしたらどうだろう。
ごん太は、にこっと笑って、同じように、僕に、Vサインを、返してきたんだ。
僕は、悔しさと驚きで、家に、飛んで帰った。
僕は、ママに、この事を話した。
『ママ、僕、ごん太が許せない。あいつ、Vサインをするんだ。僕が勝ったのに・・・』
『そうね、ピーター。それで、あなたはどうしたいの。』
『明日、もう一度、ごん太と勝負する。それで、今日より、もっと速く走って、ごん太に、僕の速さを、見せつけてやるんだ』
次の日、もう一度、勝負を、挑んだ。
『やあ、ピーター君。えっ、また競争するの。うん、いいよ。でもさ、山でばかりじゃつまらないから、今度は、海で、競争しない。』
『えっ、海で。(海じゃ、僕が、完全に不利だなぁ)』
『大丈夫だよ。ピーター君は、海が苦手でしょ。だからさ、僕の背中に、乗ったらいいよ。』
『・・・・』
僕は驚いた。
そして、
『ごん太・・おまえさ、2回目に競争した時、負けたのに、Vサインしただろう。あれは、どうしてなんだ。』
『ああ、あれね。1回目の時よりも、速く走れたからさ。』
僕は、家に帰った。ママは、こう言った。
『ゴン太くんは、誰とも、戦っていないよ。 いつも、自分のベストを、目指しているだけじゃないかしら。 私たちは、1人ひとり、持っているものが、違うの。 それを、同じ舞台で、同じように戦うのって、おかしくない。今までは、確かに、そうだったかも知れないわ。
でもね、これからは、1人ひとりの力を発揮する場が、違う事を、お互いに思いやり、認め合い、評価し合い、助け合う。そんな世の中に、なるんじゃないかしらね。ごん太君は、それを、分かっているから、自分の得意な海では、苦手なあなたを、背中に乗せるという、ゆとりの気持ちが、あったのではないかしらね。』
その日から、僕は、ごん太が、大好きになった。
そして、人と競争する事を、やめたんだ。
おわり
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自分のベストを尽くす。
誰とも闘っていない
自分との闘いかなぁ・・・