2006/10/7
イギリスの音楽といえば何が思い浮かぶでしょうか。
バロック音楽のビッグネーム、ヘンリー・パーセル、
あるいはそれ以前にウィリアム・バードやダウランド、
ドイツ・オーストリアの大家が主導権を持ったロマン派の後期には
エルガーやディーリアス(イギリス生れのドイツ人)、
近代に入り、ベンジャミン・ブリテン、、、
いずれも優れた音楽家たちですが、何か少し地味な作風を感じます。
しかし、この「地味」ということこそ英国人独特の美学なのかもしれません。
華やかで大袈裟なものは、英国人にとってクール(粋)じゃないのです。
アルフレット・デラーの歌う「FOLKSONGS」というアルバムを聴いていると、そう思わずにいられません。
アルフレッド・デラー
1912年イギリス東南部ケント生まれ。
11歳で聖歌隊に参加、27歳でカンタベリー寺院のアルト歌手となる。
1944年カウンターテナーでロンドンデビュー以来国際的に認められるように。
1950年声楽アンサンブル「デターコンソート」を結成し、
故郷ケントで「ストゥア音楽祭」を主催し、レオンハルト、アルノンクール、ブリュッヘンらが参加。
1976イタリア、ボローニャで逝去。
「FOLKSONGS」はアナログ時代に発表され(録音:1971年)、大きな反響を呼んだレコードです。
「Barbara Allen」、「The water is wide」、「Down by the sally gardens」などイギリスやアイルランドの民間に伝わる古謡をリュートやギターの伴奏でじつに味わい深く歌い、イギリス音楽の魅力を世界中に広く知らしめました。
録音された歌の多くは17世紀にトマス・パーシーの編纂した「Reliques of Ancient English Poetry」あたりに起源の見いだせるたいそう古い民謡ですが、
クラシック、ポピュラーに係わらず、
このアルバムから大きな影響を受けたアーティストは数知れず、
近年のケルトミュージックブームにも大いに関係するレコードです。
歴史的な価値も大きい録音ですが、
残念ながら日本ではCD化されていないようです。
素晴らしいアルバムなので、一日も早いCD化を望みます。
(現在はドイツ輸入盤などで入手可能です)
イギリス古謡はどれも美しい旋律と共にたいへん優れた詩を持っています。
ここに一曲だけご紹介したいと思います。
「やなぎの園」
(作者不詳)
やなぎの園のすぐそばで
恋人とわたしは会った
恋人は雪のように白く小さな足でやなぎの園を通りぬけ
木の枝に若葉が繁るように、愛を気軽に考えようといった
だが、若くて愚かなわたしは同意しなかった
野辺の川のほとりに、恋人とわたしはたたずんだ
わたしの肩に、恋人は雪のような白い手をおいて
堰に草のしげるように、人生を気軽に考えようといった
だが若くて愚かだったわたしは、
いまになって涙にくれている
(訳詩:佐藤 章)
[DATA]
Alfred Deller「FOLKSONGS」
Contre-tenors)Alfred Deller
Guit & Lute)Desmond Dupre
独harmonia mundi HMA 195226
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