歌の練習で広尾方面へ。
前に大通り沿いに歩いているときには何とも思わなかったけど、ちょっと裏に逸れると素敵な街だわね。
大きな公園があったり、各国の大使館があったり。
古い街並みにモダンな建築が溶け込んでいるのもいい感じ。
人気の高級住宅地なのがよく分かりました。高くて住めないけど(笑)。
今日の練習はいわゆるピアノ合わせで、出番の待ちが長かったので、本を一冊持ち込み<「
わたしを離さないで」
日系の英国人作家、
カズオ・イシグロ氏の小説です。
畏友女子のツイートで興味を持ち、amazonで取り寄せたところ、読み始めるなりその小説世界の虜になり、貪るように読んでしまいました。そして読破。
僕にとって良い小説というのは、いつも外界の音を聞こえなくする。
いや、ちょっと違うかな。
小説の語り手の心音を直に聞いているような感じとでも云えばいいかしら。
それでいて水の底にいるようなひんやりとした孤独感と神経が研ぎ澄まされた感じ。
あまりに主観的で申し訳ないけれど、久しぶりにそういう感覚を得ました。
差別、と書くと生々しくもラジカルにもなるかもしれないけど、今までもこれからだって被る側としては、諾々と運命に従う人が大多数であろうという透徹した事実認識と、それを打ち砕くためには人間性、特に創造性をマジョリティ側に認めさせることが何よりも近道だという慧眼、でもそれは一筋縄ではいかないという歴史観。
それに何より、どんな境遇にあっても、どんな人間であっても、人には喜怒哀楽があり、思考があり、他者との関わりがあり。
作者の想像力と構築力に脱帽でした。
時間や人間関係が有限であるからこその一つ一つの事物への慈しむような眼差しも心に沁みました。

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