今日はdreamさんと一緒に二期会のオペラ「サロメ」を観てきました。
このオペラは10年前にベルリン国立歌劇場で1度観たことがありますが、演出がコンヴィチュニーであることと、タイトルロールが大隅智佳子さんであること(この二人は
エウゲニー・オネーギンのときのコンビ!)、また出演者の一人が知人だったので、早くからチケットを押さえていました。
チラシに「本作品は一部のシーンでセクシャルかつ常軌を逸するアヴァンギャルドな表現を含んでいます。予めご了承下さい。」という但し書きがあったので、ある程度覚悟はしていましたが、これはなるほど。
テーブルの下での淫行や舞台袖でのフェラチオシーンに、日本のオペラ(歌手)がここまでやるのかと冒頭から度肝を抜かれましたが、その後も近親相姦、死姦、麻薬、鶏姦・・とショッキングな場面が続き、果ては一部男性のセミヌードまで披露されます。
そんな映画「ベント」を思わせるような世紀末の退廃した雰囲気の中、サロメは登場します。
サロメというと、ヨカナーンの首を持って婉然と微笑む狂女、あるいは悪女というイメージがありますが、今日のこのコンヴィチュニーの演出の中では、唯一正気を保った登場人物のように思えます。
鬱屈した気分の中、解放されたい、外の世界に飛びだしたいと希求している少女サロメ。
その前に理想に身を捧げて生きている洗礼者ヨカナーンが現れます。
それはどんなにか清らかで美しくサロメの目に映じたことでしょうか。
彼女は彼に恋の炎を燃やします。
彼こそが希望の光。彼こそがこの息の詰まりそうな世の中から自分を連れ出してくれる人物。
彼のようになりたい、彼と一緒になってそれを実現したい。
しかし彼は不義の娘ということで彼女を拒絶してしまいます。
生きたい、生き抜きたいというサロメの欲求。
彼女はヨカナーンを生首という形で手に入れることで生きる糧を手にします。
ヨカナーンも死という結論でサロメを頽廃から救い上げます。
ラストで二人が手に手を取り合って走り出すシーン。
きっとその先には自由で平和な世界が待ち受けているのでしょう。
・・・
今日のこの演出は、いわゆるオーソドックスな解釈とは違ったのかもしれません。
しかしサロメが心情を吐露するシーンにリヒャルト・シュトラウスがあてがった音楽はすべて初恋の音楽。
清新で甘やかで一点の曇りもなく、身体の底から沸き出てくるようなエネルギーに満ち満ちている。
音楽という面からみて、コンヴィチュニーのこの演出は非常に説得力のあるものでした。
そしてその音楽に息吹を吹き込んでくれた歌手・オーケストラ・指揮の皆さんに拍手です。
僕は今日のこの舞台に何度となく陶然となりました。
◆東京二期会オペラ劇場
「サロメ」オペラ全1幕 字幕付き原語(ドイツ語)上演
・原作:オスカー・ワイルド
・作曲:リヒャルト・シュトラウス
・会場:東京文化会館 大ホール
・スタッフ
指揮: シュテファン・ゾルテス
演出: ペーター・コンヴィチュニー
・キャスト
サロメ 大隅智佳子
ヘロデ 片寄純也
ヘロディアス 山下牧子
ヨカナーン 友清 崇
ナラボート 大川信之
ヘロディアスの小姓 田村由貴絵
ユダヤ人1 ・沈疑ヘ
ユダヤ人2 菅野 敦
ユダヤ人3 新津耕平
ユダヤ人4 加茂下 稔
ユダヤ人5 畠山 茂
ナザレ人1 北川辰彦
ナザレ人2 櫻井 淳
兵士1 井上雅人
兵士2 倉本晋児
カッパドキア人 千葉裕一
・管弦楽:東京都交響楽団

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