「俺はノリがいい」なんてな自意識のもと、この世の中の全ての出来事、有象無象の浮き沈みを越えていけたらどんなに楽だろう?って思わないかい。俺はそう思う。だけどよ「俺はノリがいい」ってばかりいたんじゃぁそれは単なるアホだぜ。
有象無象の浮き沈み?そんなくだらん事よりも大事なのは動物園に象さんがいるかいないか。って事なのさ。必要な場所に必要なもの。悲しい時には哀しい歌を。♪おまえがいなくて寂しいよ〜おまえに会いたい〜♪なんてなソウル・バラッドを唄ったっていいのさ。必要な時に必要な歌を。それがすべてさ。
「ノリがいい」だけなんて単なる阿呆だぜ。
音楽が好きだ。誰しも音楽のとりこになった頃からだんだんと世界が拡がってくんだろう。それは音楽ジャンルという意味の世界だけでなく視界、物事の見方的な部分も含む世界さ。音楽は音だけど音楽はワールドでもあるんだ。拡がってくうちにいつのまにか覚えてしまってるグループや人の名前ってのがある。俺の場合、例えばボブ・ディランだとか。ザ・ローリング・ストーンズだとか。ボブ・マーリィーだとか。そしてオーティス・レディングだとか。聴いた事もないのに名前だけ知ってるっつー。通勤途中で毎朝通り過ぎるお店のように。中に入った事無くてもその存在だけは知ってるみたいに。
俺の“世界”が拡がってくうちに黒人音楽に出会ったんだ。音楽はおっきな森みたいなもんだから。いろんなとこに入り口があってね。ケモノ道みたいに足跡が刻まれ続けていつしか道になっちゃたような。そんな入り口が此処彼処(ココカシコ)にあるのさ。セキュリティは保障されてるから入り口に門番・守衛なんてのもいないし。そして森に入り込んだ俺は黒人音楽に出会った。十字路で魂を売り渡したんじゃない。おっきな森のどこかで出会ったのさ。そして挨拶したんだ。そいつに。「ハワユー?ごきげんよう!」ってね。カーナビも無い時代の話さ。
そこ(黒人音楽)に足を踏み入れるってのは勇気とか覚悟が必要だったよ。当時の俺にとって。『一線を越える』みたいなイメージ。個人的にそんな気持ちがあったんだ。生まれて初めて自分の金でレストランに入った時のような感じ。でも慣れてしまえば大丈夫。黒人音楽が好きになりだした。
そんなある日「よし!あの有名な【オーティス】を聴いてみよう」って思った。
早速、当時通い始めていたお店、浜松でイッチばん黒人音楽に強いレコード屋へ行って訊いてみた「オーティス・レディングで一番いいのはどれですか?」って。馴染みの客に成りかけの俺に向かい店長は「オーティスまだ聴いてなかったのか?だったらこれだよ」つって“Pain In My Heart”という盤を手渡した。オーティスの1stアルバムさ。
その声にカッコよさを感じた俺はそれ以降アルバムを買い集める事になる。まるでゆっくりと階段を昇るように。オーティスのレコードを集めだしたんだ。彼以外のレコードも集めだしたよ。ソウル・レコードを聴くようになったんだ。朱色に染まれば赤くなるように。【ソウル】の在りかを探し始めたのさ。
最初は、その声にシビれていただけだが聴きこむうちにオーティスは曲もズバ抜けてカッコいい!って気付いた。まるで目からウロコさ。まるで肛門からウンコ。なにっ?「汚いっ!」って?そうじゃないのさ、ベイビー。わかってくれ。綺麗サッパリすっきりしたって言いたかったんだ!
オーティスは曲も歌も最高っ!って事さ。
あれ以来、俺はまだ階段をゆっくり昇ってる。【ソウル】の在りかを探してるのさ。ひとつだけ解かったことがある。
トライ・ア・リトル・テンダネス。ちょっとした気遣い気配りを忘れずに。ってね。
1965年発表 “Pain in My Heart”。1枚目のアルバム。B面4曲目に『SECURITY』収録。個人的にはB面1曲目の『THESE ARMS OF MINE』が大好き。ジャケット写真、40歳以上に見えるね、オーティス。
1965年発表 “Sings Soul Ballads”。2枚目のアルバム。A面1曲目が『THAT'S HOW STRONG MY LOVE IS』って曲なんだけどストーンズもカバーしててね。ミックの唄い方が印象に残っていた俺様の脳天を直撃したのさ。オーティス・バージョンを聴いてね。
1965年発表 “Otis Blue”。3枚目のアルバム。いきなりジャケットが艶っぽくなったね。内容も充実してるね、これは。サード・アルバムって感じがすごくする。アカ抜けてるし。A面5曲目が『I'VE BEEN LOVING YOU TOO LONG』というオーティスの代表曲なんだけどスローバラードでね。「なんで24〜5歳の年齢でこんな唄い方できるの?」って感じなんだ。凄すぎると思います。オリジナル曲ってのもスゴイ。
1966年発表 “The Soul Album”。4枚目のアルバム。このジャケットもグーだね。オーティスはサム・クックが大好きだったんだろうね。これまでのアルバムでもいろんなカバーを演ってるんだ、サム・クックの。このアルバムでは『CHAIN GANG』をカバー。かなり唄いまわしをオリジナルから変えようとしたんじゃぁないかな。
1966年発表 “Dictionary of Soul”。5枚目のアルバム。すごいね、邦題“ソウル辞典”だって。ジャケットもこれまた愛嬌満点。オーティスはニッコリ笑顔で赤いジャケット着ながら辞典に手を掛けてる。背表紙にはVOL:O〜Rだってさ!んで辞典の表紙にコンプリート&アンビリバボーって書いてある。『完全そして信じられないぐらい』ってことか?自分でビックリすんな!っての。んで一番下にMY-MY-MYって載ってる。MY-ME-MINEだったらまだ解かるけどよ。なんでマイが三つなの。はいはいはい、参りましたです。はい。A面5曲目に『TRY A LITTLE TENDERNESS』収録。
1968年発表 “The Immortal”。オーティス死後に発売された未発表曲集のうちの一枚。この盤は凄すぎる!未発表曲集なくせに駄曲が一切無し!そういえば思いだした。俺が20代の頃にやっていたバンドは自作ニッポン語詞ストーンズ路線のバンドだったのだが中途から黒人音楽カバー・バンドに転身したのだ。キースとブライアン、ミック・テイラー、ロニーみたいな感じでそのバンドにも相棒のギター弾きがいたのさ。奴からこんな相談を受けた。彼は彼にとっての大事な女性からこのアルバム“The Immortal”をプレゼントされたんだそうだ。新品ではなく彼女が聴き込んだ盤そのものを。ぜひとも彼女にこのアルバムの日本盤をプレゼントとして返したい。ジュンさん、もし日本盤のレコードを見つけたら教えて下さいとの事だった。そして数日後、俺は豊橋市のレコード屋で偶然見つけたのさ。そのレコードを買って翌週のバンド練習時に彼に手渡した。彼はもちろん大喜び。
別にすごい事じゃぁないよ。トライ・ア・リトル・テンダネス。それをしただけさ。

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