先々週の土曜日の午前中、通院途中で小学生ふたりがタモを片手に自転車をコギコギしてるのに出くわした。現代の小学生って『自由な時間には部屋ん中で画面に向かってゲームをするだけの生き物』だと思っている俺にはなんとなく嬉しかった光景。
そして俺自身が森ん中へ入ってクワガタやトカゲなどを捕んまえたあの夏の日は30年以上も前になるんだ、って事にさっき気付いたのさ。『懐古』って名前の時計の時針は秒速で廻っているのさ、逆回転で。
そもそも『森』の字体って木が3本立っているんだが。そうやって考えると『林』の字体は木が2本立っている。林立(りんりつ)って事だ、それは。林は風通りが良さそう。「カサカサ カサカサ」って木々の葉っぱが擦(こす)れあう音が聞こえてきそう。しっぽの長い外国産のネコが落ち葉を踏みながらどこかに向かって歩いていそう。風がネコの背中の毛を揺らしていそう。西からの陽光に木々の陰が重なり合っている。付き合いだして2週間ぐらい経過した時点の彼と彼女みたい。
そうかんがみると『木』の字体は木が1本立っているって事さ。まるで独立。まるで独身。まるで独り暮らし。まるで一輪車だ。「バランスをうまく取りな」ってあの娘は叫ぶけど。あのブルースマンが悪魔と取り引きしたといわれるクロスロード(交差点)には木が立っていたのだろうか。もし立っていたとしたら・・・暑い太陽の光の下、彼は悪魔が来るまで木の下に腰を下ろし時間をつぶしてたに違いない。そしてタバコに火をつけて青い煙をくゆらすのさ。そして悪魔が時間に遅れてやって来る・・・タバコをくわえる彼を見て「この俺様と会うってのにタバコ吸ってやがる」って悪魔は思ったか「なかなか肝っ玉が据わってんじゃねぇか」って感じたか・・・いずれにせよ音楽の歴史はここで変わり、んで始まったんだ。だから今日も俺の部屋でロックン・ロールのレコードが廻ってる。
いつだったか思い出せない。“森を感じる音楽”ってのに出会ったんだ。♪おふくろさんよ〜おふくろさん♪これは森 進一さん。♪せんせい せんせい それはせーんせ〜い♪それは森 昌子さん。“森を感じる音楽”ってのはVAN MORRISON(ヴァン・モリソン)さ。モリソンだけに森。言って損はないら。
THEM(ゼム)というバンドを抜けてソロとして活動し始めてからの彼の唄に“森”を感じる。声だとかメロディーだとか歌詞の内容だとか、そんな部分を解説者や評論家みたいに分析して感じてるのではなく唄そのものに感じるのです。ゼム時代のモリソンの声って『黒っぽい』とか『R&Bフィーリング溢れる』なんて形容で語られる事が多いのに。20代半ばでソロ転身した彼だがゼム時代と比べその楽曲の広がりは信じられないほど。たぶん色んな音楽を聴き漁ったんじゃないかな。スピードだとか荒々しさとかっつービート・ミュージックに不可欠な要素をまったく重要視してない感じ。売れようって気持ちはあったのだろうか?演りたい事を演りたいように演りたい時に演る。そんな感じだったのかも。
こうして、モリソン森に足を踏み入れた俺はここ数年、ゆっくりとレコードを集めながら森のさらに奥の方へと誘(いざな)われてるんだ。「もっと聴いてみたい」って自意識が足を進めさせてるんだ。
俺にとっての“カッコいい音楽”はいっつもこうなんだよ。
1967年発表、“VAN MORRISON”。このレコードを買ったのは博多にあるJUKE RECORDSというお店。モリソン・コーナーを発見した俺はすぐさまチェック。1967って数字が裏ジャケの片隅に記してあるのを確認した俺は「これが1stだ!やっと発見!」ってまるでモダン焼きをぐしゃぐしゃに混ぜたような喜び満面な笑顔でレジへ。そして後日、この盤が1stでは無い事が判明。収録曲、若干ダブってるけど。
1968年発表、“ASTRAL WEEKS”。ジャケット写真がすべてを物語ってる。全8曲収録でトータル45分ぐらい。ロックだったら1曲当たり3分前後な曲が俺的ベストだと思ってる俺がこのアルバムに感動してるって事自体がすべてを物語ってる。
1970年発表、“MOONDANCE”。マイケルさんがムーン・ウォークし始める10年以上前からヴァンさんはムーン・ダンスしてるんだぜ!このタイトル自体がすべてを物語ってる。ジャケットのヴァンさんは深刻な顔したヒゲ面なのに裏ジャケではヒゲが一切無い好青年な写真なのだ。この事自体がすべてを物語ってる。
1971年発表、“TUPELO HONEY”。森の小道を白馬にまたがった女性と一緒に歩くモリソンさん。裏ジャケには白馬、女性、モリソンに加えネコちゃんも参加。そんな写真たちがすべてを物語ってる。
1972年発表、“Saint Dominic's Preview”。1曲目を聴いてビックリしたんだ「この曲、聴いた事ある!」って。『Jackie Wilson Said (I'm in Heaven When You Smile』って曲さ。こうやって俺の音楽探求の過去と現在と未来がつながってゆくんだ。
1982年発表、KEVIN ROWLAND & DEXYS MIDNIGHT RUNNERSのアルバム“TOO-RYE-AY”。A面4曲目に『Jackie Wilson Said (I'm in Heaven When You Smile』収録。このジャケットの絵柄がすべてを物語ってる。
1979年発表、“INTO THE MUSIC”。ソロ・デビューから10年以上経過。ジャケット写真の彼は目をつむっているけどなんか精悍な感じがする。若い頃にやんちゃやってて悪さしてて鋭い目付きで・・・ってのは当たり前。若いんだから。このジャケットの彼みたいに年を重ねるごとに精悍になってゆくような人が好きです。そしてこのアルバムに収録された音楽はとても元気がいいんだ。

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