屈強な男たちが現れた。
3人現れたんだ。実際は屈強じゃないかもしれんが屈強風な背格好。おそらくひとりは高校時代応援団。おそらくひとりは大学時代ラグビー部。そして最後のひとり。彼は前に述べたふたりほど屈強ではない。むしろそんな事よりインパクトを外部に与えているのはその顔付き。彼はにがい顔をしているって事なんだ。簡単に言やぁビター風味って事さ。もちょっと説明を加えるんなら、それはまるで静岡産の緑茶の中に静岡産のわさびを練り混ぜたものを一気に飲み干したばっかりのような顔付きって事さ。
もしかすると彼が社会人になるまでの人生の間に何かしらの事情が彼に発生したのかも。そしてそれを乗り越え、今があるんだ。でも彼は“苦労”って名前がついた誇大広告を使って“情け”を手に入れるのが大嫌いなんだ、きっと。詐称なんて行為が苦手かも。そんな性格だからその事情を隠そうとはしてるんだ。だけど顔付きには知らん間にそれが出ちゃってんのかもしれない。やっぱり演技したり偽ったりする事が苦手なんだね。
午前8時30分に我がアパートに到着した3人は引越し屋。2tロングのトラックで現れたよ。
事前にボクの手によってパッケージされた様々な家財が運び出されてゆく。そしてテレビやステレオやギターアンプや冷蔵庫や洗濯機やベッドなどと言った巨大な装置を迅速に布等でラッピングして搬出。エレベーターの無いアパートの3階から地上に向けて階段を一段一段と下がってゆく。屈強な男たちの連係プレーさ。巨大な装置が設置してあった場所にはキズや凹みといった痕跡が伺える。溜まったホコリを掃除機やほうき・ちり取りで回収する。
3時間弱で作業は終了したよ。
昼飯をはさみ午後1時から新居での搬入作業。
将棋の駒たちが勝負前に棋板の所定の場所に置かれるように家財が新しい家のそれぞれの位置に収まる。大広間にはステレオ装置とテレビとレコード棚とCD棚とレコードとCD・DVDとビデオテープ・カセットテープ。
ボクはステレオを設置したのさ。まずはこの家に音楽を流したいからね。できればソウル・ミュージックがいいなぁ。
配線を確認しCDプレーヤーにCDを入れた。
♪わ〜け〜も〜なぁ〜く〜なみだぁぐむ〜のは〜♪
しゃがれているわけではない。黒人っぽく唄ってるわけではない。渋くアダルトな雰囲気を醸し出してるわけではない。
ただただソウルな歌声が流れてきたのさ、左右のスピーカーから。
忌野清志郎が部屋で唄っている。
2006年発表、忌野清志郎のアルバム“夢助”。8曲目に『THIS TIME』と言う曲が収録されてるんだけど同名タイトルのテレビ番組が2006年当時に放映されたらしい。メイキング・オブ・夢助なニュアンスの番組さ。今回の引越しにおけるパッケージ作業中に【THIS TIME】と記されたDVD-Rが発見されたんだ。「あれ?こんなのもらったっけ?多分、弟からだな」なんてな気持ちで「まぁせっかくだし引越し前に観ておこう!」ってなノリで5月連休後のある日の晩に観ました。
そしたらものすごくいい番組で・・・「こりゃぁ夢助は必聴だ!」と。「よし!引越し後の一番最初に廻す盤に決定!」ってわけです。聴いてみて唸りました。詞の世界も曲のレベルも、とんでもないところに位置しています。だってボクの個人的な嗜好の中で「これはイマイチだなぁ」と感じる曲がこのアルバムには1曲も入ってないんだよ!

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