「いざっ!」って時に間が悪く♪チリリリン♪って鳴る電話のように(そしてそれは全てのヤル気を失せさせてしまうやっかい物だ)終業時刻になっても様々な方面から連絡が入る。社内連絡がピッチに入る。
「今日は定時でアガるぜ!」って朝っから周りに公言していた。だって今日はストーンズのライブがあるんだぜ、マイ・スウィート・ホーム・ハママツで。信じられるかい?サービス残業なんかやってる場合じゃないぜ。しかし全てのヤル気を失せさせてしまうような終業時刻間際の業務連絡。適当に対応していざ帰宅。
すべてはストーンズのために。
17時に勤め先を出発すれば40分後にはマイ・ホームに戻れる。彼等のライブ・スタートは18時40分って聞いてるぜ。いい音楽に必携なものはいい酒さ。昔からそう決まってる。だからチャリンコで今夜は出かけるのさ、TOHOシネマズ・ハママツまで。18時10分に出発すれば間に合うはず。
終業時刻がやや遅れたためマイ・ホーム到着は17時50分過ぎ。急いで風呂場で洗髪。そしてブロー。マッシュルーム・ヘアーにミガキをかける。ブライアン・ジョーンズみたいにしなくちゃな。チャリンコのタイヤにもエアーを補充。摩擦は少なく滑らかに。スイスイ滑走マイ・チャリ。♪スリッピン・アンド・スライディン〜♪ってリトル・リチャードが唄ってることだしコケないように気をつけなくちゃだわ。果たして出発は18時18分。22分で着けるのか、その場所まで。チャリンコのペダルが漕ぎ回される。クルクルクル。
すべてはストーンズのために。
腕時計に目をやると18時30分だった「これなら間に合う。コンビニ寄ろう。酒だ酒。スナック菓子も必需品だぜ、映画には」発泡酒500ml缶2本とエビせんべいミックスを1袋購入。ライブ会場付近に施錠駐輪。いざっ!TOHOシネマズ・ハママツへ!「レッツ・ゴー!レッツ・ゴー!トーホー・シネマっ!シネ・シネ・マッズ・イェイ!イェイ!イェイっ!」声高らかにハママツ・ZAZA・CITYのエスカレーターを一歩抜かしで駆け上がったぜ!だってもう18時38分。
「いらっしゃいませ」
「ザ・ローリング・ストーンズの映画を」
「こちらプレミア・スクリーンでございまして」
「うん」
「ただいま特別料金1300円で御覧になられます」
「うん」
「席はどちらが」
「後ろの方で」
「Hの5番はいかがでしょう?」
「おぉ、いいねぇ。まるでシャネルの5番のオン・ザ・ロックみたいじゃないか」
「・・・?」
エッチなシャネルの5番のオン・ザ・ロックなシートに着席してしばらくするとライブが始まった。発泡酒のタブを起こす。乾杯っ!
すべてはストーンズのために。
インフルエンザが毎年、冬期になると世間の話題の中心となりますがそれに先立ち秋期に全国で予防接種と呼ばれる儀式が執り行われます。これは主役級の役者(今回の場合はもちろんインフルさん)を脇役かエキストラに落とし入れるための儀式でございまして。大暴れされちゃ困りますから。
そしてこのライブ。実は今回が初めてではないのです。40日程前に名古屋市でご覧になっていますの。2回目となる今回は予防接種済みと考えれば「あぁ〜このシーン覚えてらぁ」「あぁあぁ、そう言やぁここでこんな事言ってたよな」「このシーンの次は確かあぁ〜なるぜ」なんてな感じで1回目に比べ感動は薄めに薄められるはず。免疫効果で。
ところがところがどってんしゃん。開演直後より感動の嵐。嵐を呼ぶ男達。ザ・ローリング・ストーンズ。15分足らずで発泡酒500ml缶2本飲破っ!ハッ!「あぁ〜もっと飲みてぇー。だけど我慢、がまん」彼等がステージで演ってるのに酒を買うために席を離れるなんてできましぇん。
すべてはストーンズのために。
昔からいい男は早く死んじまったりするもんさ。まわりに夢と憧れと嫉妬を与え残して。グッド・ガイズ・ダイ・ヤング。そしてその時はやってきた。1回目に見た時、天地がひっくり返るような嫌悪感を抱いたシーンさ。
その男、悪そうな野郎?バッドなガイ?彼奴は年甲斐もないデザインに塗り替えた楽器を持つと年甲斐もない演奏と唄を披露した。場をわきまえた行動を取らなかったって事さ。まぁしょうがないか?名は体を現すとも申しますし。だって彼奴はバッドなガイだからな。ハッ!けつ喰らえ!
すべてはストーンズのために。
ハママツ・ZAZA・CITYの玄関を抜けて大通り沿いに出ると小雨がほおっぺたに触れた。夕方までは晴れていたのに。
施錠駐車したガードレールから錠を外す。
ペダルを漕いでチャリ発進。小雨が大雨にならぬうちに急いで帰らなくちゃ。
夜道を無灯火でチャリンコ疾走。だってダイナモ式ライトなんて未装着の折りたたみ可能な低価格チャリなんだ。
信号を二つ超えたところの三叉路を左へ折れる。20メートル程疾走すると細身の男が立っている。
「ヘイ!マン!ストップ!」彼が言う。英国人の気品を漂わせているのを瞬時に感じ取る。
下唇がぶ厚い64〜5歳ぐらいと思われるその英国男は左手を左腰にあてがいながらイヤらしく腰をくねらしながらこう言ったのさ。
「シャイン・ア・ライト!(ライトを照らせ!)」
ザ・ローリング・ストーンズのために生きた1日だったのさ!
1957年発表、LITTLE RICHARDのアルバム“HERE'S LITTLE RICHARD”。A面6曲目に『SLIPPIN' AND SLIDIN'』収録。
1983年発表、シーナのアルバム“いつだってビューティフル”。B面4曲目に『シャネルの5番のオン・ザ・ロック』収録。
1972年発表、THE ROLLING STONESのアルバム“EXILE ON MAIN STREET(邦題:メイン・ストリートのならず者)”。D面3曲目に『SHINE A LIGHT』収録。

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