ふときづくと、ちゅうりんじょうのかたすみに小さな花がさいていました。
「名もない花?名をしらないだけ?だれからもあいてにされていないのかしら。
そんなひとりぼっちな花。
だれのことも気にとめずさいている。だれのことばも耳に入らずさいている。
いっしんふらんにさいている。その立ち方なんてまるでげつようびのちょうれいで
「きをつけっ」って先生からめいれいされてるみたい。そんなさきかた。
見てないだけなのかしら。聞いてないだけなのかしら。もしかしてそんなふりを
してるだけなのかも。わかった。ホントはかまってほしいんでしょ。手をあげるのが
はずかしいだけ。あいてにごかいされるのが死ぬほどこわいのよ。
だからそんな見栄をはっている。
クールってよぶんだろな。じょうほうざっしのコメンテイターのひとは。あんなのを。
きっとつぎの週からはクールごっこがよのなかをおおでをふって行進するのよ」
そんなことをかんがえながらジューク・キッチンはクルマにのりこみました。
ちゅうりんじょうのわきみちをとおりながら。その小さな花を見ながら。クルマに。
ジューク・キッチンって?そんなの知りません。だってただのあだ名ですもの。
もちろんかれにだってちゃんとした名前があるのです。あの花とはちがうのです。
おとうさんとおかあさんがいっしょうけんめい考えた名前がある。
ジュークの将来。未来。行くすえ。そんなものにじゅうてんをおいて。こうりょして。
そしてその中にはおとうさんおかあさん二人のきぼうやゆめが、まるでホットコーヒーのなかに入れたミルク製品みたいにぐるぅ〜りぐるぅ〜りと溶けているのです。
ジュークはクルマをはっしんさせました。目指すはゲームセンター。
場末のボーリング場に隣接されたよくあるタイプのゲームセンター。
だってきょうは金曜日なんですもの。週払いのアルバイトをしているジュークの
給料日は金曜日。せかいいちの大金もちになったきぶんです、ジューク。
ゲームセンターにつきました。金曜日はいっつも満員です。土・日曜日が休みの
わかものは“あしたのしごと”なんていうがいねんをマラリア海溝のいちばんふかい所においてきたみたいにして過ごすのです。金曜日のよるを。
ジュークはほかのお客さんのあいだをスラローム走行のようにすりぬけて店のいちばん奥に行きました。ジューク・ボックスのコーナーです。
ちゃりん。100円コインを入れるとジュークはお気に入りの曲をさがしました。
♪うわ気な目つきのクレイジークールキャット♪
シーナ&ザ・ロケッツの『KRAZY KOOL KAT』が流れ出してきました。
ジュークの週末はいつもシナロケの曲と一緒にスタートするのです。
1981年発売、シーナ&ザ・ロケッツのシングル『ピンナップ・ベイビー・ブルース』。B面に『クレイジー・クール・キャット』収録。
1981年発売、シーナ&ザ・ロケッツのアルバム『ピンナップ・ベイビー・ブルース』。A面2曲目に“ピンナップ・ベイビー・ブルース”収録。B面3曲目に“クレイジー・クール・キャット”収録。この2曲どちらもシングルとは別テイク。B面5曲目に“ジュークボクサー”収録。
一度だけ福岡にある名門レコード店【ジューク・レコード】を訪れた事がある。オーナー・キンキー康さんはあいにく不在でシナロケTシャツを着たボクは「浜松からシナロケTシャツを着た奴が来たって康さんにお伝え下さい」ってバイトの男に伝えて店を去ったんだ。

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