ぼくらはみんな生きている。生きているから唄うんだ。音楽も聞こえてくるんだ。聴きたい音も聞きたくない音も鳴っている。生活の中のサウンド・トラックみたいなものか。B.G.M.ではなくサウンド・トラック。
☆太平洋の海岸線。ブライアン・アダムスをカーステから流しながら独りで疾走してた80年代後半のある日。そして俺自身は20代前半のある日。車窓から眺める景色に応するブライアンが最高のサウンド・トラックになっていたある日。
1983年発表、BRYAN ADAMSのアルバム“cuts like a knife”。ジャケット写真で彼が持ってるギターがリッケン・バッカーってのも好感度アップだいね。
☆風が流れるように吹く土地でハーモニカや口笛を吹いているスナフキン似のおとこ。その構図自体がサウンド・トラック。タイトルをつけるんだったら“流線型”という名の映画がぴったりさ。
☆昭和時代。ニッポンのトラック運転手はカーステで演歌を聴いていたんだろう。80年代初頭に読んだとある音楽雑誌では「アメリカのトラック運転手はカーステでAC/DCを聴いてる」と記していた。ストーンズでもなくエアロ・スミスでもなくAC/DC。運転免許証もまだ所持してない高校生の俺は「なんかわかるわかる」ってうなずいていた。そんな“ドライブ”にまつわるサウンド・トラックの話。
1978年発表、AC/DCのライブ・アルバム“ギター殺人事件”。たしかAC/DCのエの字も知らなかった中学生の俺はレコード屋の棚でこのアルバムを見た記憶があり。『流血ライブ』なんてサブ・タイトルが付いたジャケットを見て。それはそれは衝撃で。「ギターの人はたぶん死んでしまったのだろう」なんて。「新聞沙汰だっただろう」なんて。そんな記憶があり。
☆わたしはバンドマン。オリジナル曲が完成しそうだったり完成したばっかりだったり。そんな時期には生活の糧となる仕事の真最中でも自分の最新曲が頭の中をループする。おもしろい事にその曲は、職場とまったくかけ離れた場所で鳴っている感じがするんだ。映画における映像効果を上げるためのサウンド・トラックとは正反対に近い位置にあるサウンド・トラックだ。
☆大好きな女のコとの初デート。♪フン〜ヌゥ〜フゥ〜♪ふいに口から出た鼻歌は知らぬ歌。あ、違った。鼻歌だから鼻から出たんだ。彼女は彼に訊く「いい曲ね。誰の曲?」。大事な初デートで鼻歌とは肝っ玉が100kgぐらいの重さで座ってる輩(やから)か。それとも彼をそんな気分にさせてしまう彼女の方こそハートが100kgぐらいの軽さで浮いている乙女(おとめ)か。彼は「自分の思いつきの曲(鼻歌)」とは言えず「モータウンの曲だよ」って答える。「へ〜。モータンって人なんだぁ」「いやいやモータウンってのは60年代にアメリカで一世を風靡した黒人音楽レーベルなんだよ」「詳しいのね。今度、そのモータンのベストCD聴きたいわぁ」「おおう、いいとも」「やったぁ。田村君のモータン・ベスト、早く聴きたい」。彼、田村君は彼女の度重なる“モータン”って言い間違いには言及せずにベスト盤作成を快諾したんだ。ところでこのふたり。その後、上手くいったんだろうか?うん。おそらく万事オーケーだったと思う。つまり100kgの重さな肝っ玉と100kgの軽さなハートはバランス良く、つりあっていたって事さ。田村君がその時に作成したモータウンの編集音源。それはふたりの生活のサウンド・トラックになったんだろう。そしてモータウンのロゴの横には“THE SOUND OF YOUNG AMERICA”って言葉が記されてる。
☆耳元で♪Boom Boom♪と音がする。蚊だ。おもいっきり「パチン!」って左頬斜め上を平手打ち。目が覚めた。初夏のある日の朝の出来事。そしてその日は日曜日だったんだ。日曜日なのに早起き。これはかなりくやしい出来事。いや、とてもくやしい出来事。ブンブンなサウンド・トラックだったらジョン・リーのブギーを目覚まし代わりで。
1980年公開『THE BLUES BROTHERS』とそのサウンド・トラック盤。
映画始まって57分ぐらい経過したところでジョン・リー・フッカーが登場。今で言うところの「ストリート」、つまり路上ライブを演っている。演ってる曲が『Boom Boom』。このシーンどうやら生演奏らしく。んでメッチャめちゃカッコいい。問答無用なブルースの響きなんだ。だけど残念な事に肝心のサントラ盤には未収録なのだ。

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