はじめて訪れる場所ってのは刺激的。かどうかは知らない。キミはどっちだろう。初訪問の地でデジカメがフル回転かい?携帯で撮して写メを連射かい?
まぁ、それは訪れる場所にもよるわな。男性諸君が初めて風俗関連のお店に行った日、誰でもそれは刺激的。女性のみなさんが付き合ってる彼氏のお父さんお母さんに初めて会うとき、誰でもそれは刺激的。デジカメも写メもできないほどに。マナーモード・スウィッチ・オン。
25歳頃だったか、秋にバイクでツーリングをした。紀伊半島一周さ。友人と一緒に。友人というか彼はバンド仲間だったんだ。ボクはギター弾きだが彼もギター弾き。つまり当時のボクのバンドはギターがふたり居たのさ。ザ・ローリング・ストーンズのように。AC/DCのように。サンハウスのように。そしてそのバンド、ボクのバンドはクレイジー・ダイアモンズって名前だったんだぜ。
その日の天候はあいにく雨。しかしボク等は国産アメリカン・バイクに跨(またが)って路面にふたつの車輪を転がす。轍(わだち)は残らず、雨しぶきはサングラスに当たってる。紀伊半島の南側に辿り着いたのは午後6時過ぎ。降りしきる雨の中で今夜の宿を探す。さびれた感じのタバコ屋を見つけた。バイクを止めて自動販売機でホット缶コーヒーを買う。機械的な女性音声で「ありがとうございます。おつりをお忘れなく」って会話されたんだ。しばらく缶コーヒーを飲みながらタバコをくゆらすふたり。やがてクルマが現れた「泊まる宿あるの?」50ちょい過ぎと思われるその男は右サイド・ウィンドウを降下させると顔を出し、慣れた口調でツーリング途中のバイク乗りふたりにそう訊ねたんだ。まるで痒いところに手が届く孫の手が一気に100本ほど集まったかのようなズバリな問いかけ。「いやぁ〜今探してるんですよ」「おぉ!だったら教えてやるよ」「美味い喰いもんもあるとサイコーなんだけど」「おぉ、任しときな」なんて言うもんだから、50ちょい過ぎと思われるその男が。
宿はなんのこたぁーない。単なるユース・ホステルだった。でもいいさ。知らない街で夜中に宿を探し回る事ほど時計の針の進みを早く感じる事はないぜ。宿帳にふたりは名前を記入。友人は『松田優作』ボクは『鮎川 誠』。しかし、すごいのがここからだ。50ちょい過ぎと思われるその男が宿からボク等を連れ出して歩く歩く。優作も鮎川も歩く歩く。しかしあのふたりは身長高いからな。背が低いし足が短いボク等はちょっとだけ早足な大股で歩いたんだ。
料亭に着いた。3000円で食べ放題飲み放題なんだって。そして卓へ料理が運ばれてきた。海鮮料理。それがまた美味いし量もめっちゃくちゃ多い。次から次へと出てくるんだ。そして満腹なボク等は酔い酔いでステップ踏みながらホテルへ戻ったんだ。
翌朝、起床すると晴天。ボク等は宿の水道ホースを勝手に使ってバイクを洗車したのさ。まるで自分の家のように。
そして数百キロの道程を終え無事に浜松へ。
ひと昔前の映画やテレビ・ドラマや小説だったら“野郎の旅”といえば必ず旅先で女との情事シーンがあったものさ。「旅館の若女将は未亡人。ふらり立ち寄ったひとり旅の学徒に恋の手ほどき」なんてな映画。「偶然通りかかった田舎道にバイクが止まっている。ヘルメットを片手にバイクを眺めてるのは黒髪の女性ライダー由紀子。由紀子のホンダCB750が故障で止まってしまったんだ。一雄はクルマから降りると由紀子に声を掛けた。なぜなら一雄は隣町のバイク工場で働く整備工だったのだ」なんてなドラマ。「九州から東京へ向かう列車に乗ったあいつのトイメンに女が座る。それほど会話が弾んだわけではなかった。しかし、あいにくその列車は名古屋止まりな事を知るふたり。そしてふたりは名古屋で一夜を過ごす羽目になってしまう。そしてふたりは・・・」なんてな小説。
ボク等ふたりは野郎の旅に付き物の『息子の家』の扉も叩けずに浜松へ戻ったんだ。“事実は小説よりも奇なり”だって?うそつけ!事実はありきたりの事実のままさ。フィクションのように行くはずない。同んなじようにフィクションはありきたりのフィクションのままさ。
“住めば都”と誰かが言った。でもよぉ、今は自己中心的な奴ばっかだからな。そんな奴等は“住めばコッチのもんだしぃ〜住めばうちらが大家みたいなもんだしぃ〜”なんてヌカシながら可燃物ゴミの廃棄日に資源物ゴミを平気で捨てるのさ。なんだかんだ言ったって住む家があり、そこに住む人が居るからゴミだって生まれるんだ。どちらかが欠ければ何にも生み出されない。家なんだよ家。家ってイエ〜っ!
家は家でもちょっとスゲェ家があるぜ。サンハウスってバンドを知ってるかい?SUNHOUSE、太陽の家?ノーノーノーっ!SONHOUSE、息子の家。そう。
いいかい?俺はあの日(サンハウスのレコードをターン・テーブルに初めて乗っけた日)からずぅ〜っと息子の家の扉を叩き続けてるんだ。開けそうで開かない扉を今も叩き続けてる。そしてサンハウス・デビュー35周年を記念したツアーが平成22年5月に行なわれてる。明日、5月15日、大阪まで観に行くのさ。さぁ開けそうで開かない扉を俺は開けれるんだろか。いや、もしかして開けたいんではなくて叩き続けていたいだけなのかも。
大好きなバンドなんだ。

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