『デリカシー (英)delicacy @感情・心づかいのこまやかさ。A繊細。精巧。B上品。優雅。』
なんてな説明が書いてある。おいらが所持する角川書店出版の国語辞典に記述されてる。昭和五十四年一月二十日二二一版発行のマイ・ディクショナリーに。なんたっておいらが中学校に入学した時に手に入れた辞書なんだぜ。三十年前だぜ。そんな時代の辞書をまだ使ってるんだ。解からない言葉があるとすぐこれを使って調べる。手に届く場所にいつだって置いてあるのさ。
「ねぇねぇ、そんな古い辞書、使ったってさぁ、言葉の使い方とか解釈はどんどん変化してんだから。最新版買わなきゃダメだら。登用漢字だって毎年更新されるだに」
「あぁ、そうかい。そうかもな。でもよ、おいらは今でも五十年以上前に発表されたブルース・レコードを聴いてるぜ。四十年以上前に発表されたロックン・ロール・レコードを聴いてるぜ。三十年以上前に発表されたパンク・ロック・レコードを聴いてるぜ。明治時代の文豪の小説を読んでるぜ」
「だからなんなのよ」
「何かを買う時には、おめぇみてーな“新し物好き”はやっぱりニュー・モデルを購入するんだろう。それは、それでいい事かもしんない。経済効果もバツグンだし。だがしかし、それは、その行為はけっしてモダンとは言えないぜ」
「んじゃぁなにがモダンなのよ?」
「いい言葉があるぜ『温故知新』。これがすべてさ。でも間違ってはいけないのがレトロ趣味。ややもすると似てるけど、これとはまったくもって違うんだ、モダンってのは。ポール・ウェラーは常に作品を作り続けている。あの感じさ」
アツアツのカップルが腕を組みながら土曜日の街の裏小路を急ぐ。ふたりには行く場所があるのさ。いいじゃないか。だって土曜日だもん。土曜日はナンだって許されてしまうような気配が漂っている曜日なのさ。そんなアツアツなふたりを見て若者が四つ辻から「ひゅい〜っ」って口笛を吹いた。吹いたんだ。そんな光景を見ておいらの横を歩いてた彼女はおもわずこう言った。言ってしまったんだ「まったくデリカシーってものが無いわね」って。
そう言った彼女の名前はデリカ。いつも彼女はこんな風においらに言うんだ「あたしの名前が例えばレイラだったら華麗な感じだったのに。もしくはクランプトンのソロ時代の名曲“レイラ”が“デリカ”だったとしたらあたしの名前も一般性を帯びていたかもしれないのに。ちきしょう!」
「ちきしょう!」なんてなデリカの言葉遣いが如何な物か?ってな事はさておき。おいらは彼女に「いやぁ〜キミ〜が言ってる事〜ちょっとおもろいね〜。クランプトンじゃなくってクラプトンでしょ?レイラは。なんか微生物のプランクトンがクラプトンのあの時代のお髭や毛髪に絡まりついてる感じがしててなかなかイイ〜感じなんだけど。実はクランプトンじゃぁないの。クラプトン」などといろいろ言ってやりたかったが我慢した。おいらは我慢した。だって今日は土曜日。ナンだって許されてしまうような気配が漂っている土曜日なのさ。雰囲気を壊しちゃぁいけねぇ。デリカとおいらだってアツアツなのさ。
口笛を吹く。人間の身体から発せられるけどそれは言葉じゃぁない。言葉じゃ表現しきれないものを表現するんだ。たとえば夜中にヘビを呼ぶとか。たとえばモールス信号みたいな連絡用合図だとか。たとえば感情だとか・・・そんな場合だと状況によってはデリカが言うような『デリカシーを欠く』って事も起こりうる。
そして楽器としての口笛ってのがあるんだ。それを知ってるかい、あなたは。それを聴いた事があるかい、キミは。
人の身体はまるで楽器ってことさ。吐息が響いてる。指が歪んでる。歩を進めてるのはハート・ビート。ゴールは近くて遠いようで。遠くて近いようで。すなわち、予測すら付かないんだ。
クルマ往来激しい国道バイパスをキジトラ柄のネコが悠々と横断しきったぜ。
1968年発表、OTIS REDDINGのアルバム“THE DOCK OF THE BAY”。A面1曲目に『(SITTIN' ON)THE DOCK OF THE BAY』収録。口笛の曲っつったらこの曲でしょ、まず最初に誰でも思い浮かべるのは。
2006年発表、忌野 清志郎のアルバム“夢助”。14曲目に『あいつの口笛』収録。「おそらくオーティスの事だよな。ドック・オブ・ザ・ベイでの口笛の事だよな」なんて事を唄を聴きながら思いふけっていたんだ。あとになって歌詞カードをしっかり見てて気付いたんだけどこの曲は細野晴臣さん作曲なんだよね。そして曲中に聴こえる口笛は清志郎が吹いてると思っていたんだが、歌詞カードよく見ると「スティーブ・クロッパーがアコギと口笛」って書いてあったんだ!ビツクリしました。
1977年発表、BILLY JOELのアルバム“THE STRANGER”。A面2曲目に『THE STRANGER』収録。曲の頭でなんか気取って口笛吹いてるぜ。そして曲が始まった・・・「あれ?この感じどっかで聴いた事あるんじゃない?」って。10秒後に判明「おぉーーー寺尾 聰のルビーの指輪にそつくりだぜ!これは」って。まるで砂場で宝物を見つけた小学生のような気分になってしまったボク。そして何食わぬ顔して、他人(ストレンジャー)を装って宝物をこっそり部屋に持ち帰って、友達を呼んで見せびらかすんだ。そん時のように友人を呼んでルビーの指輪について『元ネタ知ってるぜ自慢』をしたのさ。
1994年発表、忌野 清志郎のアルバム“MAGIC”。1曲目に『口笛』収録。このアルバムはソロとしてのベスト盤なんだけどこの曲だけは未発表曲だったんだよね。“メンフィス”録音時のテイクでしょう。演奏はMG'Sの面子だもーん。
1971年発表、JOHN LENNONのアルバム“IMAGINE”。A面3曲目に『JEALOUS GUY』収録。とっても、か弱い口笛でね。だって心細いやきもち焼きな男の歌だもん。そういう事さ。

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