老夫婦にお礼を言ってホテルをチェックアウトするとボクらはオックスフォード駅の西100メートルのところにあるレンタカー・ショップへと歩を進めた。店内で手続きを済ますとクルマが準備される。小さなフィアットだ。今日はドライブをするのさ。田舎へ行くんだ。COTSWOLDS(コッツウォルズ)地方へ行くんだ。
エンジンキーを捻るとエンジンが動き出した。CDをカーステレオに投入すると音楽が流れ出した。ザ・フーの『マイ・ジェネレイション』さ。CDは“フーズ・ベター,フーズ・ベスト”という音源。ドライブには音楽が必需品だろ!つって数枚のCDを部屋から持ってきておいたのさ。用意周到。春夏秋冬いっつでも音楽を聴いていたい。英国全土の道路地図だって持ってきたぜ。10年以上前に発刊されたものだけど。
緑が広がる景色の中をクルマは進んでゆく。地図を頼りにあっちこっちと道を間違えながらも最初の目的地:BIBURY(バイブリー)に着いたのは正午頃。小っちゃな村。クルマん中ではザ・ジャムが流れている。川沿いに路上駐車のクルマが連なる。ここはかなり有名な観光地なんです。『右へならえ』でボクらも路上駐車。たぶん駐車オッケーな場所だと思います・・・。クルマから降りて散策。道沿いを。川沿いを。坂道を。ゆっくりゆっくり小一時間。おとぎ話に出てくるような街並みです。夜になったら三角形のてっぺんがトンがった形の黒い帽子を被った魔女が上空から舞い降りてくるに違いない。そしてボクにこう語りかけるんだ「ヘイ マン ニッポンカラキタノカ? ソウカ ハネムーンナンダナ ワイフヲタイセツニシナイトアタシガユルサナイカラネ ダイタイニオイテ ヤロウドモワオンナヲカルクミスギテル タンナルセックスノタイショウトシテシカミテナインジャナイノカ? マッタクモッテ ムカツクゼ!ファックユー!ソレカラ ユーワ ヒコーキニノッテルトキニ スポットライトヲコワシタデショ?アノトキニライトノハヘンガ オレニフリカカッタンダゼ オボエテルカナ? オボエチャイネーダローナ トニカク オマエワドンクサインダヨ」こ、こ、こ、この魔女様はボクがキャセイパシフィックの狭いファッキン・エコノミーシートでの出来事を知っていやがる!「おまえは誰なんだ?」ってボクが心の中でこっそり思ったとたんに彼女はピュぅ〜って上空に舞い上がった!そして地上50フィートのところでこっちを振り返った。そして・・・その顔は・・・あ、あのクールなイケ面イギリス野郎に変わっていたんだ・・・く、く、く、くそう! 奴はやっぱりクールな顔付きだった・・・
今回のバイブリー訪問であるひとつの事を企てていたんだ。実は11年前にボクはイギリス各地を旅したことがあるんです。ひとり旅。そん時にもこの地を訪れていた。そして街道沿いのとあるギャラリーで絵を買っていたんだ。そしてその絵はそのギャラリーの女性オーナー、当時で50歳前後、が自ら描いたものだった。「ボクもアマチュアだけど絵を描くんです」つったら「うん、そういう顔付きをしてる」って言いながらその場でいらない紙の裏側にメッセージと日付とサインを書いて渡してくれた。『そのおばちゃんにまた会ってみたい。あの絵を持参して』っつー感動的な企画。
そのギャラリーは難なく見つかりました。家内と入店。「ハロー」っておばちゃん。奥の方で作業をしてる。店内の絵をふたりで観てまわる。んで記念に一枚、小っちゃな絵を買う事にした。レジでお金を支払う。そしてその時が訪れた。ボクは話しかける「おばちゃん、ボクのこと覚えてる?」「ん〜〜〜ゴメンね、覚えてないよ」「んじゃぁこれ見てみてよ」「なにを?」ボクは持参した“あの絵”を袋から取り出し彼女に話す「11年前に実はこのギャラリーをボクは訪れてるんだよ。おばちゃん。この絵見てみてよ。ホントだら?」「ワァ〜〜〜〜おっ!すごいっ!ホントだ!感動だよ!ジュンちゃん!すんげーっ!」
ボクらはおばちゃんとのスリーショット記念写真を撮る事もなく店を出た。だって、いつかまた会いに行っちゃうような気がするからさ。思い出は写真や映像なんかに留めておかず心の中だけにしまっておいた方がいい場合だってあるのさ。
その後はクルマを再び走らせてBourton-on-the-Water(ボートン・オン・ザ・ウォーター)って街に寄った。ここは完全な観光スポットだった。どデカイ駐車場があったり、何十台もの観光バスが駐車してあったり、何軒もお土産ショップが連なってたり。そしてボクらは誰も入らないような細い路地に入ってゆき誰も居ないような場所で休憩したのさ。王道ロックも聴くけどマニアックなバンドもいいんだぜって感じ。
夕方、オックスフォードに戻った。昨夜の大騒ぎな欲望の街は姿を学生の街に戻してるようだった。授業を終えて通りを歩く学生達を眺めながらニッポン人観光客のボクらは無事、レンタカー・ショップに着く。クルマん中で流れていたザ・キンクスのCDをカーステレオから抜いたんだ。
そうしてふたりは駅へ向かった。おみやげが詰め込まれた荷物を引きながら。ゴロゴロ。ロンドンへ戻るのさ。
オックスフォードで泊まったB&B。B&Bってのはベッド&ブレックファーストの略らしい。お泊りと朝食付きですよ〜って事さ。ニッポンで呼ぶところの個人経営の民宿に近いノリだね。
バイブリーの風景。この石造りな民家の色が特徴で最初見た時は「おぉー!」って感動するけどこの地域の家はほとんどこんな感じなんで最終的には「あぁーまたかぁ」みたいな感じになるよ。
日付が1998年4月29日ってなってるね。ギャラリーのおばちゃんがくれたメッセージ・カード。絵の裏側に貼ってあるのさ。
ボートン・オン・ザ・ウォーターの風景。人ごみ(言い換えれば観光客)を避けて避けて細い路地に入ってったところを抜けたら門があったんだ。そこも勝手に開けてズンズン行ったら草っぱらに出た。そこから撮った写真さ。
オックスフォードへ帰る道。家内が助手席から撮影。

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