ブルース・ハープってのは面白くて・・・って、いやいやブルース・ハープの説明から始めなきゃな。ハーモニカです。ぷひ〜。小学校時代に吹いた、吹かされたハーモニカはたっくさんの穴が開いていたよ。ぱっこんぱっこん。上下2段に開いていた。ぽっこんぽっこん。吸ったりハイタリ。ビブラ〜トで振るわせよう。
ブルース・ハープってのは面白くて、たった10穴なのだ。ぷひ〜ぷひ〜ぷひ〜。擦ったりハイタリ。くちびるを湿らせたら、さぁ、あそこを振るわせよう。急いで口で吸え。
レコードなんてなものがコンパクト・ディスクなんてなものに生産量において負けちゃう頃の話。時代が変る瞬間の話。1980年代後半。落ち葉が道路の両脇に集まってる頃だから秋か。
とある日曜日の午後。ボロボロのセーターを着たボクはナニかを売る為か買う為かのためにその場所に居たんだ。リサイクル・ショップにだよ。ある人が不要・不用になったレコードをリサイクル・ショップに持ち込んだらしい。レコードを見つけた。レコード中古盤屋じゃぁなくってリサイクル・ショップってのがポイントなのだ。ひとやま幾らで買い取られたんだろ、レコード達が日本人と外国人の二つの列だけに分けられて並んでいた。居心地悪そうに。斜めに傾いたりして。とりあえずレコードを一枚ずつメクっていった。本のページを一ページずつメクるように。
一枚のレコードが出てきた。空色のバックにウェーブが掛かった頭髪が踊ってるようなヘア・スタイルな男の横顔の写真。下目線でハーモニカみたいなものを吹いている様子。ジャケットのど真ん中よりちょっと上方に小さくタイトルが書かれている『BOB DYLAN'S GREATEST HITS』その下に更にちっちゃな字で10行の英文字。これは曲のタイトルだろうとすぐ解かった。「10曲入りか。どれどれ“風に吹かれて”は入っているかな?“時代は変る”は入っているかな?」
高校も卒業し洋楽も好んで聴くようになってから「ボブ・ディランも聴いてみよう」と思った時があった。なんせ有名だし。♪ボブディラン♪って発音するだけでなんか神聖な響きが宿っている感じだし。当時、母親との会話の中でも父方の親戚のお姉さんが大学生の頃ボブ・ディランを聴きに日本武道館へ行ったと言う話を聞いた事もあったし。母親の口から【ボブディラン】って【言葉】が出てくる事自体がスゴいインパクトだったんだ。そして所持していた洋楽ガイド・ブックに掲載されていた『追憶のハイウェイ 61』が自分にとっての初ディラン体験となった。「“ライク・ア・ローリング・ストーン”はカッコいいけど、なんか全体的に一曲一曲が長いなぁ」って感じだった。ボクん中にある音楽の世界の扉をノックしてきても、まだ玄関先で佇んでるディランだった。彼のほうから訪ねて来た感じがしたんだよ。偉そうに言っちゃうけどさ。「聴けよ!」って彼が扉をノックしていた。
家財品のジャングルのようにいろんな物品が散乱しているリサイクル・ショップ店内の迷路を進みレジへ辿り着いた、片手に『BOB DYLAN'S GREATEST HITS』。「どうしても彼の代表曲“風に吹かれて”と“時代は変る”は他人との音楽話をする時のためだけにでも聴いておかなくちゃな。カッコつかんぜ」って極めて不純な動機、バンドマンとしての自分の立ち位置を守るためだけに買ったのさ。
先にも述べたとおり日曜日だったから時間はたっぷりあったんだろう。家に帰ると確かボクはビールを、発売されたばかりのサントリーのモルツかなんかを飲みながらレコードをプレーヤーに載せたんだと思う『BOB DYLAN'S GREATEST HITS』を。
ボブ・ディランといえばサングラス。ジャケット羽織ってスリム・スラックス穿いて。たぶんスラックス。ブラック・ジーンズじゃぁないと思う。ジーパン姿のイメージって少ないね、彼は。そして先っぽがとんがったブーツ。くしゃくしゃのパーマ・ヘアーに不機嫌そうな口元。これぞボブ・ディラン。勝手なボクのイメージん中の彼。
そしてレコードが廻り始めたんだ。
♪ぷひ〜♪呼び鈴のようなハーモニカの音が聞こえた。気がした。そしてボクは扉を開けてしまったんだ!
スウェード生地の先っぽが極端にとんがったブーツが踏み込んできた!ボクん中にある“感受性”って名付けられたスペースの土間に。
2008年9月に発刊されたバリー・ファインスタイン撮影のボブ・ディラン写真集『時代が変る瞬間』を購入した。ボクのイメージん中の彼がそこに居る。
ハーモニカを久々に吹きたくなったんだ。♪ぷひ〜♪って。
1976年発表、BOB DYLANのアルバム“BOB DYLAN'S GREATEST HITS”。A面2曲目に『BLOWIN' IN THE WIND(邦題:風に吹かれて)』収録。A面3曲目に『THE TIMES THEY ARE A-CHANGIN'(邦題:時代は変る)』収録。ジャケットの右上を見てみよう!だ円のシールを剥がしたような跡があるぞ?ジャケットの右下を見てみよう!バーコードと“2703”ってナンバーだ!以上の証拠によりこの盤は昭和末期より発生した名物:レンタル・レコード・ショップの遺物と断定する!確か\500ぐらいで購入したんだよ。おかげでボクはディランを部屋に迎え入れる事ができたってわけさ。
真ん中が件の写真集、バリー・ファインスタイン撮影“時代が変る瞬間”。左にチョイ見できるのが1993年発刊リチャード・ウィリアムズ著“果てしなき旅”。これもカッチョいい写真満載。右にチョイ見できるのが1974年発刊片桐ユズル、中山容 訳“ボブ・ディラン全詩集”。1995年ぐらいまで活動していたボクのバンドのメンバーが「じゅんさんの誕生日にディランの詩集プレゼントしたいんですけど持ってます?」って言うから「当然持ってるよ!」って応えたんだ。のちのち気付いたんだけど彼がプレゼントしようとしたのは1974年版のこの詩集じゃなくってその後の作品まで網羅した改訂版だったんだ!チキショー!
【720×515×5/キャンソン・ボード/アクリル画】右下のサインを見てみよう!14.2.94って書いてあるなぁ。1994年の2月14日に描き上げたって事だね。普通、バレンタインつったらさー彼女とイチャイチャしてチョコレートと同んなじかそれ以上の甘〜〜い事をするもんだぜ。ボクは会社でもらった義理チョコかじりながらディランの絵を描いていたって事の証さ。孤独だったんだよ、当時は。

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