Cより
「さぁジョイントしようぜ、あれを」「ん〜もぉ〜せっかちねぇ〜。ま〜だまだぁっ。時間はたぁ〜っぷりあるわ」「んな事ぁねぇよ。もう7時40分だに。遅刻したかぁねぇよ」「だっからダメなのよ。時間なんていう概念、捨てておしまいっ。ピーター・フォンダが“イージー・ライダー”ん中で出発前に時計捨てたみたいに。あなたがそんなものに捕らわれてるうちは羽を身にまとう事は無理ね・・・」
誰の声だったのか。確かにその声を俺は聞いたんだ。
気が付くと国1にジョイントするために左折するはずの三叉路を直進していた。前方にはやっぱり奴がいるんだよー。時計の針とスピード・メーターの距離計が回り続けてる。まるでオールナイトのDJ・パーティーにおけるターン・テーブルみたいに。奴はどこへ行く?そして俺はどこへ連れてかれるんだ?
「これがラスト・シーンへの一本道か。俺はどぉなるんだぁ?んんん〜あれ何?あれが競艇場?」・・・・・・・・「これが浜名湖競艇場か。初めて間近で見るなぁ。でっけぇなぁ。駐車場も広く取ってあるね」・・・「わぁ!もぉ7時50分だぁ!やっべっ!遅刻っ。どうすりゃぁ国1に戻れるんだろ?」
その一本道は果てしなく続く・・・みたいな感じの浜名湖競艇場への連絡道。またもや初めて走る道。教会での結婚式で多勢に祝福される為に設置されたヴァージン・ロードみたいな。初めてのロード。片側1車線の細道。式でのロードが新郎新婦が歩ける幅だけありゃぁ充分なように細いロード。だからUターンは無理だよん。映画“卒業”のラストに近いシーンでのホフマンみたいな真似はできないよん。たとえ俺がA級ライセンス所持してたって不可能。人間には限界があるんだ。ウェアーを英国製に変えたからちょっとずつ更新されてる日本記録だって限界があるんだ。たぶん。100mを5秒で走る事だって無理でしょ。きっと。早朝って事もあり競艇場の駐車場にはチェーンが施されてるし。だから駐車場への入場及び方向転換不可・・・だから走り続けた。走り続けるしかないら。キーポンラニン。鵜の目鷹の目(うのめたかのめ)で運転してる俺。
「おっ!見〜っけっ!ラぁッキ〜ぃーっ!チェーンないぜっ!Uターンっ!Uターンっ!Uターンっ!」
しばらく走ってるとフリーな駐車場を見つけた。ラッキーな俺。俺ラッキー。俺はすばやくウィンカーを左へ点灯させますと急なブレーキを踏みまして、そのあと直ち(ただち)に、左方への方向転換を致しました。左折したのであります。浜名湖面に響き渡る後続車両のクラクション。ヴィっーヴィっーぶィっ。広い駐車場にロケットの不時着状態な感じで入り込みましたとさ。今度はハンドルを右に切ります。ユーターン。連絡道をこれから引き返すのです。そして道路手前で一旦停止。左右確認。左OK?右OK?大丈夫?オーケーならばゆきましょう。ゆこうではありませんか。
行き交うクルマが途切れた。いざ出発!ロード合流前に俺はあくびを一つ。ふぉわぁ〜ん。左方を見ると奴のクルマ、濃紺のセドリックはすでに姿を消していたんだ。
俺のラスト・シーンは一体いつ来るんだろ。
おわり
1968年発表、映画“卒業”のサウンド・トラック盤。
1967年発表、SPENCER DAVIS GROUPのベスト盤“THE BEST OF THE SPENCER DAVIS GROUP”。B面1曲目に『KEEP ON RUNNING』収録。
1974年発表、CAROLのベスト盤“GOLDEN HITS”。A面4曲目に『ヘイ・タクシー』収録。

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