「あぁーっ!もぉー飽き飽きだっ!うんざりだっ!」
そんな事、誰でもあるでしょう。あるはず。いっくら“クール”な“お澄まし態度”な“(誰からも狙われないように)保険を掛けた自己防衛分析”が売りなあんたでも、そんな気性の上昇下降運動、そんなもんが“自我自意識”って名前の地軸を中心としてクルクル自転してる“マイ・ワールド”(俺に言わせりゃぁ“ユア・ワールド”)ってやつん中で躍動してるんでしょ?
誰しもはけ口を求めてる。“喰べたら出す”こんな明確すぎるほど明確な、はっきりしすぎな生命体の“お約束”。
ほら、見てみな。はけ口を見つけられていない欲求不満のカタマリが街中に溢れかえってるぜ。メイン・ストリートをふんぞり返って歩いてやがる。弱い者をいじめてる。そしてそいつは更に弱い物を叩く。ブルースが加速している。
飽き飽きでもうんざりでもないけど「気分を変えてみよう!」って思いつきで通勤路を変更したゴールデン・ウィーク明けの5月の第一火曜日。「行きかた間違えないだろか?」「遅刻しないだろか?」「歩道を歩く奥方を見たら美保純や風吹ジュンや山口百恵みたいな女性に似た顔立ち・スタイルだったりして・・・WOW!・・・出会えたらどうしよ。どうやって自分の事、自己紹介しよか?自己紹介すんならやっぱ控え目に謙虚にお話して、実際ん時んなったら『ワァ〜オ!アナタサイコウ!』なんてビックリさせちゃったりして・・・たまりまへんなぁ」なぁ〜んてな早朝7時過ぎ。いろんな事、頭ん中に巡らせながら出発。頭ん中が“妄想”なんて名前なジグソーパズルの欠片だらけ。億万ピース。
アパートを出て直線道路を直進。坂を上りきったところにある最初の四つ辻。クロスロード。
「あぁー今日から仕事?やる気ねー。んでも銭には変えられねぇし。しょうがないら」「新入社員のあのコ、カワイイよな。昨日のスマスマの話題ふってみよ」「昨日のあのバンドはすごかったなー。“パンク”って名乗るんだったらあんぐらいの気合いで来て欲しいよね。暴れるのだけが目的じゃぁないけどさ、パンクって」等々、三者三様、十人十色、様々な思惑や期待や諦めが、まるで冬場のなべ物料理みたいにごった煮になってる四つ辻。クロスロード。信号機に従って動いたり止まったり。誰も魂とナニかの取引きなんてしてないのさ。事情をわかったふりして相槌打って頷きながら片手に持った携帯からお気に入りホームページの更新を待ってるのさ。
いつもは左折していた交差点。そこを直進した。職場へ向かってる。
初めて走る道路。車窓から見える風景は新しく。行き過ぎる建物、すれ違うクルマや朝の定例散歩をする飼い主と飼い犬。車窓から見える風景は新しく。「はじめまして!」ってクラクションを鳴らしながら行進したい気分。
海水湖の入り江に架かる橋を渡ってると旧車が向かってきた。窓を全開にして。OLDSMOBILE ROCKが加速する。
そうして時間通りにいつもの場所に到着したんだ。ゴールデン・ウィーク中に被って溜まったホコリに息吹きかけたんだ。風よ吹け。俺をどこかへ飛ばしておくれ。
1995年後半から鮎川 誠氏はパーソナル・コンピューターを始めたそうだ。そのきっかけを「ボブ・ディランやらローリング・ストーンズやらがインターネットでライブを配信したりCD-ROM発売し始めて、これじゃニッポンのロックが負けとるって思ってコンピューターを始めた」たしかそんな内容の事を1997年春頃の“笑っていいとも”出演時に話していた。
そして1997年夏発表の“@HEART”。タイトルからして氏の当時のパソコン三昧ぶりが想像できるでしょ。その年の初めにはパソコンとの出会いと格闘の日々を綴った本“DOS/Vブルース”も発刊してるんだ。
パソコンを触った事の無いボクはひたすら記されている文字を追っていたんだ。方向も角度も長さも温度もわからず。ただ追っていた。
“喰べたら出す”
それからおよそ10年後にやっとボクは自分のホームページを立ち上げる事ができたんだ。
《上》1997年発表、SHEENA&THE ROKKETSのアルバム“@HEART”。A面6曲目に『OLDSMOBILE ROCK』収録。《下》1997年発刊、鮎川 誠の本“DOS/V BLUES”。

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