なんだかんだで彼奴(きゃつ)の右手に握られた、もっと詳細に述べるところの右手・親指と右手・人差し指に挟まれた白色の丸みを帯びた正三角形〜おにぎりの形〜をしたセルロイド製フェンダー・ハード・ピック。そいつが俺の身体に触れている。俺の一部を揺さぶっている。そして。俺は叫ぶんだ。“音”っつ〜言語でもってね。
彼奴はニッポン人。ニッポン語を喋ってる。白米を喰っている。味噌汁を味わってる。薩摩芋焼酎もロックで飲んでる。おつまみはあたりめだろ。そりゃそうだ。当たり前。
彼奴がもし英国人だったら。英語を喋ってスコーンにストロベリー・ジャムとアール・グレイでアフタヌーン・ティーか?
そんなブリティッシュ野郎がこの俺に触れたとしても。揺さぶったとしても。俺は叫ぶんだ。“音”っつ〜言語でもって。
どっかで言ってるぜ。聞いたことあるら?【音楽は国境を越えた共通言語】だって。
まぁ彼奴を含むあんた等人間が勝手にそぉ解釈してても一向に構わんけどな。別に俺は。
共通言語つったってあれでしょ?結局は、それを“理解”“体感”“共鳴”なんつ〜フィーリングで捉えれなけりゃぁただの【雑音】でしょ。違うかい?選ばれた人間だけが使用可能な“共通”言語。ひゅ〜っ。
あんた等は自分達が “この世で一番偉い生き物” と思い込んでる “世界一の阿呆な生き物”なんで。ちょっとだけ学を身に付けた口達者な輩は言うんだ、配下に向かって、偉そうぶって「楽器は奏でる人によって音が決まるんだぜ」って。
ところが俺はカメレオンみたいに色を変える。音色を変える。保護色になるってんじゃぁないよ。誰が守ってやるもんか、そんな屁理屈。ヘソ曲げてやるのさ。あんた等それぞれが持ってる魂(ソウル)っつ〜形にだって色にだって言葉にもだって表現不可能な物体の温度差によって勝手に曲げるヘソ。勝手に変える音色。
俺自身が感情の塊り(カタマリ)。俺自身が動かぬ動物。
そして、なんでも喰らう。俺は雑食。どこまでも伸び、そして、どこまでも縮む。やりたい放題。そぉ。相手次第でどぉ〜にでもなるし。相手次第でどぉ〜にでも演技する。
俺は八方不美人。俺は気分屋。そんな俺は揺れている。その揺れ方はまるで、明日は楽しみにしてるハイキングだって〜のにあいにく曇りがちな今にも雨が降り出しそうな感じがする本日夕方4時頃だからってんで「しょうがない。これをやろう」ってぶら下げられた自分勝手な人間共のエゴの象徴とも言える軒下のテルテル坊主みたいだ。ゆらゆらゆら。
アイ・アム・ギター。俺はギター。ギブソン・レスポール・カスタム。ワインレッド・カラー。アメリカ・テネシー州・ナッシュビル生まれ。現在、静岡県浜松市在住。太平洋の向こう側から太平洋のこちら側へ渡ってきたんだ。ギター・ヘッドに刻まれたシリアル・ナンバー・82027513。つまり1987年の202日目にナッシュビル工場で作られた13本目なのだ。えぇ〜っと今年は2007年だから20歳って事さ。
ついでに教えとく。いっつもこの俺と一緒に居る彼奴の名は透(とおる)って言うんだ。
明日へ続く
1988年発売、RCサクセションの2枚組アルバム「MARVY」。FISHサイドA面2曲目に『GIBSON(CHABO'S BLUES)』収録。

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