《6.とうとう出会えたっ!》
ここ”マッシュルーム王国”じゃぁね「今の季節、春なのかな秋なのかな」なんて事、解かんないよ。『暑さ寒さも彼岸まで』つったって。ねぇ?
まぶしいぜぇ。あれは真夏の太陽か?あの光りに向かって、お辞儀をしている、コウベを垂れてる花は向日葵かぁ?そんな事も解かんないよ。真冬に咲く向日葵が居たっていいんじゃぁなぁい?ねぇ?
季節の無い街に生きてるんじゃぁない。季節を感じない街に住んでるんだ。
前方に背の低い男が見える。歩いてくる。近づいてきた。顔立ちから判断すりゃぁ英国人かな?40代半ばの歳恰好。頭髪の具合から、透は、そう判断したんだ。しかし、外国人が不思議と多いこの『マッシュルーム王国』で、彼のような背の低い人物に会う事は稀(まれ)である。稀なんだ。不思議と親近感が湧く透なんだよ。なぜって、彼、透もそうだからさ。背が低いから。そんな些細な事が、他人にとっては、ホントに小っちゃく感じるような事が本人にとっては大問題なんだ。解かるら?なんとなくでも。あのね、コンプレックスって言うんだよ、そんなもんを。だけどね、そんなもんが何かのきっかけになるんだよ。なるはず。やいやいやいっ!大事な事が、一つだけあったよ。あるんだ。そのコンプレックスとやらを表看板にしちゃぁならぬ。そぉ〜っと、そぉ〜っと、心の内に秘めておくのがカッコいいのさ。んで大事な人の前だけで、そん事を、こぉ〜っそり打ち明けるんだ。あなたにとっての大事な人だったら受け入れてくれるはず。受け入れてくれるといいね。
男とのすれ違いざま「やぁやぁやぁ!こんちはっ!」透が声を掛けたよ、男に。同朋意識のもと。”どっかで見た事あるなぁこの顔、だけど思い出せないなぁ”って気持ちのもと。そして”この男、なんでこの年齢設定にしてんだろう?今まで会ってきた多くの奴等は、だいたい若かりし華があった時代に設定してるぜ。ジョン・レノンみたいな現役をしりぞいて家庭生活に専念してた時代に設定してる奴も居るけどな”って思いのもと。
男が挨拶する「ハッ!」。うっ!この声っ!もしかして彼は・・・。「スティーブ・マリオットってんだ、俺。よろしくなっ!」「おぉぉ〜っ!逢いたかったよっ!スティーブっ!」「ふぅん。おまえは?」「トール・ウェムラー。上村 透ってんだ、俺。でもスティーブぅ、なんであの時代に設定してないの?年齢」「あの時代ぃ?いつだぁ?」「スモール・フェイセズ時代に決まってんじゃん!」「また、MOD談義の始まりかい?いい加減うんざりしてるんだ、俺は。昔も今も。あの頃は、あんな感じの曲を演りたかっただけなのさ」「わかるよ。だから、あんたはMODなのさ・・・」「うるせぇっ!これ以上、俺ん前で『MOD』って言葉、言ったらゲンコくれるぞ、おまえん頭に」「ごめんごめん、もう言わんよ。ところでスティーブの誕生日って確か・・・」「1月30日だったよ」「そうだよね。実は俺も1月30日なんだよ。一緒の誕生日なんだよ」「ふぅん。それで?」「あれぇ?感動しないの?俺達、一緒なんだよ、誕生日」「おめぇバカだら?こっちはカレンダーねぇんだよ。誕生日なんてあっちの世界での話さ。だから、永遠の年齢設定なんだよ、こっちは。いっつまでもそんな事にぶら下がってるなっ!ところで、そう言うおめぇの年齢設定は?」「俺は40歳」「俺は44歳」「自分にとっての最新型でいるのが・・・」(二人一緒に)「MODっ!」。”ごっつんっ!”。お互い、相手の頭にゲンコをくれちゃったんだ、二人は。
スティーブ44歳、透40歳。二人の年齢設定ってさ、あっちで死んだ時の年齢だったんだよ。
始まりは終わりの始まりか。終わりは始まりの始まりか。成功の後には失敗か。失敗は成功の素(もと)か。
自分で選んで自分で決めて納得しよう。自画自賛のあんたが描いたその絵を、そのまんまにしていても、塗り変えても、どっちでもいいはずだ。
真冬に描いた向日葵は”真冬に咲いた向日葵”なんだ。そう言う事だと思う。
これからも『マッシュルーム王国』には、いろぉ〜んな人々が入国してくるはず。
そういう時代になっちゃったんだ。ぼくらが大好きな音楽が生まれて、先人に影響されながらどんどんどんどん継承されてって、長い時間が経ってるね。
たとえ、あんたの大好きな人が、たとえ、こっちからあっちに行くような事があっても無言で受け入れようよ。「おつかれさま」って黙って言ってあげよう。
「コンコンっ!」ロックされた扉がノックされた。《事務・森村》っつー名札を付けた細い皮パンに黒いセーター、パーマ毛髪の痩せた男が扉を開けた。
「ゲロッパっ!」デカい声。
どうやら新しい男が入国するようだね。あっちの世界における西暦2006年も終わりに近づいてきた頃の話さ。
おわり。

0