《5.国道69号線での出来事》
道路標識には記されてた『パンク注意!』ってね。
透の運転する1967年型ミニ・クーパーがスラローム走行。まるで、あっちへフラフラしながらフラメンコ踊ったり、こっちへヨロヨロしながらヨーロピアン気取りするみたいに。いつでも、どこでも流行を追いかける為にファッション雑誌と睨めっこしてる人達みたいに。自動車運転教習所でのスラローム走行なんてもんも同んなじだら。だって、等間隔に規則的に並べられたパイロンを回避だもん。だって、突発的事象に対する予行演習だもん。学んでる。出されたメニューを食べている。毎年9月初旬にニッポン各地で実施されてた避難訓練を思い出す透なんだ。くねくねスラローム走行しながらね。
「こんなさぁ、みんなペチャクチャおしゃべりしながらさぁ、タラタラ訓練してたってさぁ、いざ”地震発生っ!”ってなったらさぁ、みんなパニックなるに決まってんじゃんねぇ」なんて透が言ったら「いやいや、けっこうねぇ効果あるらしいんだよ、これが、透ちゃん。身体が覚えてるんだって、避難経路とかね」って年長の男が言った。透「あぁ〜なんか解かる解かる。身体が覚えてるっつーの。例えば初めて聴くロックンロールの曲があったとして、それは突発的事象なわけで、でも、この流れ、曲調ね、で来ると『次はこう来るな』って想像つくもんね。んで来るんだよ実際に(太鼓を叩く真似をしながら)♪ドコドンっ!♪(右こぶしを挙げながら)♪イェイっ!♪ってね、なるんだよ。でもねぇ最近の若い奴等ってねぇ、この”ノリ”っつーのが無くってね、わかんねぇみたいなんだよ。俺よりコンマ6秒遅れて♪イェイっ♪って言うんだよ」。
透の運転する1967年型ミニ・クーパーがスラローム走行中。パイロンが並んでるわけじゃぁないよ。不規則に並べられてるのは、鋲付き皮ジャンパー。国道69号路線上に投げ捨てられてるのは、鋲付きリストバンド。鋲付きベルト。「なるほどね、これが『パンク注意!』って事ね」って透が感じながらルーム・ミラーで後方確認。スリムのブラック・ジーンズでエンジニア・ブーツ履いた細身の男が鋲付き皮ジャン拾ってるのが見えた。奴は”パンクのヒーロー”か?”パンクの犠牲者”か?
前方に視線を戻すと、パンク・パイロンの転がっていない直線道路に戻っていた。透はアクセルを踏み込んだよ、もちろん『マイ・ウェイ』を唄いながら。
「腹ん減ったなぁ。コンビニエンス・ストア寄るか」。
コンビニの扉を開けると長身の破れたブルー・ジーンズ、長髪の男。片手にチーズ・ピザ。もう一人いた。ポパイのティ〜シャ〜ツに前髪がそろったマッシュルーム風髪型の男。片手にチューイング・ガム。二人とも鋲の付いてない皮ジャンに運動靴。レジスターのまん前でジャンケンを始めた二人。二人とも黙ったまんま。仲が悪いのかな?ポパイ・チューイン・ガムがジャンケンに負けた。レンタル・カードをレジの男に差し出すポパチュー。レジの男は『中国石』ってプリントされたエプロンを肩から掛けながらカードを受け取りチェックを済ますと「サンキューサンキューサンキュー」ってお礼の言葉を三遍も繰り返しながらお辞儀をしたんだ。
透は明太子おにぎりを手に入れて店を出た。「そんじゃぁまたね」って中国石に言いながら。んでクルマを発車。ぶるるるる。
「ガソリン無くなってきたなぁ。ガソリン・スタンド寄るか」。
「ハイオク満タンで」「あいよ」「ついでにパンクも見てもらえる?」。”パンク”という言葉に、その男の目付きが変わったんだよ。男「走ってればパンクなんて気付くはずだぜっ!タイヤが、ぶれるはずだろ。おまえ、そうやって他人に頼るなよ」。
カードを提出。ガソリン支給明細票にサイン。透がカードを受け取ると男が片手を差し出してきたんだ。まるでフェンダー・テレキャスターを下から上へ、一弦っから六弦へカキむしるようにカッティングするように。「あのパンク・ファッションを道にばら撒いたのは、この俺さ。おまえんクルマがパンクしてないとこ見ると、上手くスラロームしてきたな?避けてきたな?危険回避してきたな?道なんてただの道さ。まっすぐ突き抜けろよ。パンクってのはアチチュードだぜ」。
透って奴ぁさぁ、あっちの世界でさぁ「パンクってのはロックの一種だ」って思ってたみたい。その音楽「最初のうちは異端な存在だった」って事も解かった上でだけど。だから、しぶしぶと握手したんだ、その男と。真面目そうな顔付きの彼と。
数日後だよ。透は、やっとこさっとこ(通称:とうとうorついに)あの男に出会えたんだぜっ!
Eへ続くよ。


《写真と本文は無関連です》

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