べろべろべろ。何処(どこ)も彼処(かしこ)も舐めまくり。ロック・バンドのキャラクター・マークの中、世界で一番知られていると思われる図柄。通称 ”ベロ・マーク”。その図柄をあしらったTシャツが溢れ返っている。男も女も。背高ノッポも背低チョッポも。邦人も異人も。あらゆる世代が。お気に入りの場所へ行く時には、お気に入りの衣装で行かなくっちゃ。気持ちを表現するのさ。相手に向けて。自分に向けて。廻りに向けて。 場所は「都市別イルカ及びシャチ泳ぎオリムピック」が開催されれば間違いなく金メダルの街、名古屋の全天候型野球場ナゴヤ・ドウム。本日の出演:THE ROLLING STONES。ストーンズさ。
トム・ソーヤとハックルベリー・フィンが名古屋港にイカダで流れ着いたと言う。トムとハックもストーンズを観に来たのだ、遠いあの島から。
入り口前のグッズ売り場には長蛇の列。ニシキヘビ6966匹分の長さ。さすがのトムとハックもビックリ。「なに?この列?」とトム。「みんな並んでるだら、グッズ買うのに」とハック。春だと言うのに北風にあおられ、ちょっぴり寒い屋外でみんな並んでる、ベロ・マーク・シャツを着ながら。係員にトムが尋ねる。「グッズって中(球場内)でも売ってるの?」「はい、売ってますよ」とおネェちゃん。質問するのにわざわざ野郎に聞く筈はない。おネェちゃんに決まってる。
「あれ?なにやってんの?ハック」とトム。「カメラ隠してる」とハック。ハックはカメラ持参だった。当然だ。ハックが獲得した二人の座席はアリーナ席。そして今回のストーンズのツアーではGIG中盤にステージがそのまま移動しアリーナ・フロア中心に設けられたBステージと名付けられた部分で演奏を繰り広げると言う。二人の座席はBステージ真横だったのだ!ストーンズの奴等を手に届く距離で観れるかもしれないのだ! トムは自分の目ん玉と心のちょうど真ん中あたりに ”ロックン・ロール・ハート”という100年プリントも真っ青の特製カメラを内蔵していた。
おネェちゃんの言うとおりだった。入場してみれば、すぐそこはグッズ売り場。並んでる人はチョロチョロ。先程のニシキヘビ6966匹分と比べてみよう。長さにしてこっちはミミズ6分の1っくらい。ロックン・ブゥ〜ンのイチ。ブゥ〜ンの所は歪(ひず)んだギターの音を想像してみよう。状況をしっかり把握しなければ。解からない事は人に聞け。そうすれば道が開ける事もある。寒い北風にあおられながら貴重な時間を浪費せずに済むのさ。
「はい、パンフレットいっこ」。トムはパンフレットを1部購入。待ち時間ゼロで。しかも飛びっきり可愛い売り子の女のコから。うっしっしぃぃ。早速、キチンとキッチンのように区切られた ”喫煙コォナァ”で喫煙しながらパンフレットを眺めるトム。写真が充実したパンフレット。永い間、活動をし続けている彼等ストーンズならではの写真の数々。トム、パンフ購入に満足。サティスふぅわっくぅしょぉ〜ん!って、くしゃみしちゃったよ、トムちゃん。
午後5時開場、午後7時開演と書いてある、チケットに。どうやら今回は前座演奏があるらしい。トムは当日まで、なるったけそれまでのストーンズ来日公演のレポって言うものを見ないようにした。読まないようにした。目隠しをしていた。しかし興味のあるものには、やっぱり心が許さない。ちょびっとだけ、ホントにちょびっとだけ目隠しを外して見ていたんだ、トムってぇ奴は。かくれんぼの鬼が、こっそり両の手の指の隙間を作ってみんなの隠れる場所をチェックするように。トムの大好きな美保 純ちゃんがスッポンポンで部屋に現れて「トムっ!見ちゃダメっ!」って、あの鼻声で言われて「うんっ!わかったっ!絶対見ないよっ!」って答えても、こっそり両の手の指の隙間を作って純ちゃん見ちゃうように。トムってぇ奴はそういう奴なんだ。
前座の演奏が噂通り始まった。噂通りの演奏だった。トムもハックも席を立たずに、しっかりと座って見続けた。演奏が終わった。トムがハックの方を見ると、ハックは眠っていた。しっかりと眠っていた。しかしトムは前座の公演に感動していた。演奏に?ノー。楽曲に?ノー。じゃぁ何に?彼等は午後7時ピッタリに演奏を始めた。そして午後7時半にピッタリ演奏を終えた。誰が観たってわかるよ。ストーンズ・ファンがうなずく音楽じゃないもん。それは彼等、前座バンドのメンバー自身だって解かってる筈。でも彼等はきっちり与えられた時間を守ってフルに演奏した。少しでも自分等の演奏を聴いてもらいたいという気持ちの現れだろう。トムはそこに感動したのさ。
午後8時。照明が落ち、球場内、大歓声。B.G.M.はまだ鳴っている。「おっ!」トムとハックは一緒に声を挙げた。流れ出した曲はトムとハック、二人とも大好きなバンドTHE CLASHの ”SHOULD I STAY OR SHOULD I GO”!。わぁ〜おっ!ストーンズ、クラッシュの曲を選んでるぜ!そんでもって、この曲だぜ!「頼むから言ってくれよ ここに居るべきか それとも行くべきか」ミック・ジョーンズが愛嬌のある声でワンフレーズ唄ったとたんに「ドッカァ〜んっ!」ストーンズのGIGがスタートさ。「わぁ〜すごい」トムはつぶやいた。ステージ上の、その最新映像技術に。ストーンズって、もう巨大な団体だからね。レコード・ジャケットにメンバーの写真だけ載ってたって、THE ROLLING STONESって名前が出たとたんに大っきな歯車が廻り始めるからね。そんな事をトムに感じさせたオープニングだった。

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