スペインの街を歩いていて偶然見つけた工事中の新しい建物を観察すると、彼の地での建築について色々なことが分かります。
この写真はピソ(アパートメント)を造っている最中のものです。
建設業に関わっている人ならこの写真を一目見ただけで不安になるはずです。
なぜだか分かりますか?
この建物の骨組みには「梁(はり)」が無いのです。
日本の在来木造建築は軸組工法と呼ばれ、文字通り柱と梁で架構(軸組)を組み床を載せるというのが原則です。
鉄筋コンクリート造の場合でも基本は一緒です。
柱と梁による架構が全体を構成し、構造壁が柱を補い、床が梁を補って成立しています(ラーメン構造と言います)。
ところが写真では、床厚は日本のそれよりも厚いものの、梁がまったく存在していません。
恐らく梁と同じような配筋(鉄筋の並べ方)はコンクリート床の中にされているのだとは思うのですが、梁形が全く無いというのははじめてみたときは驚きでした(ちなみに初めて見たのはニューヨークででしたが)。
さらに柱の細さも気になりますし、なにより構造壁がありません。
1階部分(スペインではバホと呼ぶ)にレンガ積の壁が一部見られますが、これは空間を仕切るためのものであって、構造上有効な壁(構造壁)ではありません。
前述の通り、柱と同じく鉄筋コンクリートの壁が一体となって造られていないとこの柱の細さでは地震力に対して抵抗できないはずです。
ではなぜ構造壁が無いのか?
実は答えは簡単です。
地震が無いからです!
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学生時代、近代建築の巨匠ル・コルビュジェ Le Corbusierに心を奪われ、
彼の著書を貪った時期があります。
その中に彼が提案した「ドミノシステム(Dom Ino)」と言う構造がありました。
ヨーロッパ伝統の「壁」から切り離された丸柱とスラブ(床)だけで構成されるその軸組は、組積造からは考えられない明るさと自由さをヨーロッパにもたらしたのだと思います。
工事中の写真はまさにそのドミノシステムそのものです!
コルビュジェの理論が普遍化したのだと考えると、ある種感慨深いものがあります。
とは言え、やはりコンクリートの構造部以外をレンガを積んで壁を構成する方法が今だに主流(レンガの上にペンキやスタッコをするのが一般的)ですから、繰り返し書いている通り窓のデザインはパンチングになります。
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蛇足ですが、地震がめったに無い国では当然津波もありません。
スペイン人と会話をしている途中、地震の話題になったのですが、津波のことをいくら話してもピンと来ないようでした。
なぜ地震と波が関係しているのかが、地震の経験の少ない彼らの思考回路の中では上手くつながらないようでした。

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