今回は写真のような伸びやかな道をドライブしながら想像した、幾つかのエピソードの紹介です。
それではドライブ気分でスタート(笑)。
上の写真は前述の、僕が以前滞在したコンドミニアムの部屋(バルコニー)から撮影したものです。
右上にボンヤリと蜃気楼のように見えるのがトロント市街です。
このコンドミニアムが建っているのは、トロントのダウンタウンから地下鉄で20分ほど北上した位置です。
そして目の前の通りを市街地とは反対方向に小一時間も車で走ると下の写真のような風景が広がります。
基本的にはフラットな地形ですが、所々大きくうねった丘を越えて道路が伸びていきます。
今回のレポートのタイトルは『カナダの郊外をドライブ』ですが、すぐに大自然に吸い込まれてしまいます(笑)。
どこまでも続く伸びやかなドライブで気付いたのは、あくまでも印象でしかないのですが、壁を板張りにしたいわゆるサイディング壁の“コロニアル様式”住居の比率が高いということです。
前述のレポートで新しい住宅はほとんどが木造レンガ壁だと書きました。
それが中心を離れるにつれてアーリー・アメリカンのスタイルに近づくというのは実に興味深いことです。
アーリー・アメリカン(Early American)と言ったように、アメリカ(と今回は便宜上呼びたいと思います)へ移り住んだ人々の初期の住宅は、外壁の仕上にレンガでなく板材を張っていたことでしょう。
実際の家作りを回想した上での僕の仮説ですが、木造ですから家そのものは大工さんが建てます。
外壁仕上も板材(木製サイディング)であるなら、それも大工さんの仕事になりますが、レンガや石を採用すると、別の職人である石工さんの仕事になってしまいます。
入植当時はあらゆる面で人材不足であったろうし、むしろ自分の家くらい自分で建てることが当然であったと思います。
とするなら、やはり少ない職種(技術)で済ませると言う意味で、板張り仕上の家が大多数だったのではないでしょうか。
ここでセルフ・ビルドという行為に注意を向けましょう。
ちょっと大袈裟に言うと、そもそもアメリカの精神の一つは「独立と個性」ではなかったでしょうか。
ヨーロッパの歴史的重圧から逃れて新大陸に移り、ヨーロッパ(イギリス)支配の新大陸で独立宣言を勝ち取り、独立した個人が独立した住宅に住まう。
そのための住居は当然、個人が独力で築く。
そのための工法が、日本の在来工法のような特別の技術を伴わずに建設可能な「木造枠組壁工法(ツー・バイ・フォー)」です。
この工法は言わば「木造壁式工法」であり、ヨーロッパからの移民である彼らがヨーロッパの建物の特徴である「組積工法」の因子を持つがゆえに、たとえ木造であろうと「壁」の存在を欲したという僕の仮説についてはすでに述べました。
「大草原の小さな家」を思い出してください。
あれが典型です。
日本とは異なる木造の形式です。
また、「独立性と個性」をテーマにして独自の様式へと昇華させた建築家が、皆さんご存知のフランク・ロイド・ライトです。
ライトの、特に初期の住宅は大平原に浮かぶ船のように水平ラインを強調した美しい形態を伴い「草原住居 Prairie House」と呼ばれています。
大自然の中で独立した家族が生きるための「家」は大海原を力強く優雅に進む船に例えられました。
そしてもう一人。
同じく「I独立性と個性」というテーマを持ちながらエンジニアとしての職能を充分に発揮したのが、20世紀のダ・ヴィンチとも称されるバックミンスター・フラーです。
彼は幾何学による力学特性と工業技術を組合せて、大平原にポコポコと建つきのこのような住宅を計画しました。
これは計画案のみで実現こそしませんでしたが、アメリカの精神と近代技術の融合(それゆえ近代のイニシアティヴはアメリカに委ねられる)を目指したと言う点で大きく評価できます。
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今回はドライブを通してのイメージ・ゲームでもあったので、少々とりとめの無い話になってしまったかもしれません。
最後に北米の住宅を思いつつ、頭から離れない言葉を紹介して今回のレポートを終えたいと思います。
あるドイツ人の哲学者が1951年に行なった公演のタイトルでした。興味のある方は調べてみてください。
即ち「建てること、住まうこと、考えること」(M・ハイデガー)

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