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あるいは〈幽霊と館内鉄道〉

 

ヌカとルミ(さかさまのシャツの従姉)

現在連載中の超短篇歌物語「ヌカとルミ(仮)」は“一話”から始まっていますが、どこから読んでもいいし、すべて読む必要もありません。
(この記事はつねにトップに表示されます。)
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投稿者:etc

二十八話

地図を書いてくれた人は
「この先へ行っては駄目だよ。もうじき満潮だから」
そう付け加えると、海岸線をさらに太くなぞった。
手の甲には青い三角州がうかび。



暮れすすむ海辺で椅子が深いことしかわからない会社をさがす
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投稿者:etc

二十七話

人生には私の読む本を、うしろから覗き込む顔があるのだ。
そいつはいつもひと足先に読み終え、次のページにめくれるのを余白で待っている。
私はページの数だけ不本意なドアボーイの役目を果たさなければならない。

ある日突然何もかもいやになる、の「何もかも」の中には、たとえばそんなことだって入っている。




長袖をぶらぶらさせて落ちてくる真っ赤なあれはきみの思春期
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投稿者:etc

二十六話

いい足音のする靴をみつけたので、どこかに出かけようと思う。
そう話しながら眠ってしまった晩に見るのは、どこまでもくだり続ける細い階段の夢だ。
階段の途中には自販機がある。何度も車にひき潰された、ちらしのように平たい缶が明かりに浮かび上がる窓。デザインの痕跡しかない缶の、何だかどれも見覚えがある気がして立ち止まっている。

そんな走り書きのある紙切れが、古い本のページから額に落ちてきた。
私の字ではない。だが夢には、たしかに見た覚えがあった。




ベーカリーの日除けの影で半分があかるい顔の中の無表情
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投稿者:etc

二十五話

話しかけると隙間を覗くような気分になる。
だが隙間などない。相手は犬なのだから。
垣根にひっかかっていた吸殻をしっぽが叩き落す。
犬よ、私は人間である。
私の帰り道に信号は二つしかない。
その二つにおまえは挟まれて、じっと聞き耳を立てている。
「そうか血の色だからなのか」
人間たちが、赤になるといっせいに止まる理由に
はたと思い至ったという顔で。
目があうと、向こうから気まずそうに逸らせた。



階段がむきだしなのは舌だから アパートの白く塗り直す屋根
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投稿者:etc

二十四話

乗り物といっても、ぼくたちには大した数はない。
エレベーターを入れる? 入れても二十にも満たないだろう。
だったら行けるところまで徒歩で行くほうがいい。
乗り物に乗ると、目的地がぼくらを目がけてくる。
ぼくらは閉じ込められていて、それをよけることができない。正面からそれに激突する。
見つからないように距離を詰めるには、だから、乗り物はふさわしくないのだ。
本当は、徒歩もひとつの乗り物なのだけれど。



それが正しいバスと信じて座るなら窓の曇りに息をかさねて
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投稿者:etc

二十三話

近所の家具屋に行くと、九十一段ベッドを売っていた。

なぜ九十一段なのか店員に訊ねたら、法律で定められている上限なのだそうだ。
「それ以上の高さになると、この国では誰も売ることができないんですよ」
そんな豆知識を披露しつつ、店員はまぶしそうにベッドを見上げた。
つられて私も見上げる。すると最上段から、子猿のような男が必死に手を振っているのが見えた。

店長なのだという。






三〇三号室はベッドのある頭蓋骨だと思ってください 消灯します

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投稿者:etc

二十二話

みだらな父親の子として生まれた記念に、彼女たちは剃刀の詰まった靴を履いて夜の旅に出た。
ぬかるみを歩く気分がしたのは、べつに気のせいではなかった。
彼女たちが近づくと音でわかる。魚が跳ねるように聞こえたのだ。


横笛が頬にささってる雪だるまバス停にありぼくらは並ぶ
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投稿者:etc

二十一話

最初は罠だったけれど、百年後の今はインターチェンジです。


おまえなんかおまえなんか 指輪ごと棄てられてまだ花嫁でいる
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投稿者:etc

二十話

ずいぶんめくってしまったページは、残りがとても薄くて、
その薄さを透ける光さえ射してこないことに、ぼくらは顔を見合わせた。


きれいな勝手口だといって見せにくる こんな時間にバスから降りて
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投稿者:etc
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