2008年の韓国では「On Air」「Spotlight」「彼らが生きる世界」と、放送業界を描いたドラマが多かったように思う。中でもこの「彼らが生きる世界」は、たった16回の中によくぞこれだけの話を盛り込めた…と思うくらい、主人公だけではなく周囲の役の人生や生活・恋愛・結婚についても描かれており、その年齢幅も20代から50代60代に至っており、年齢差のある人との友人関係まで考えながら、じっくりと見た。
韓国の連続ドラマは週2回の放送なので、台本も撮影もギリギリの状態で、撮り終えたビデオをバイクで局に運んで、放送時間直前に編集できる…なんていう話もよく聞く。このドラマもそんな切羽詰った状況から始まる。
ドラマ監督のチョン・ジオ(ヒョンビン)は、当日放送分のテープの一部に問題があり、急遽、同僚のチュ・ジュニョン(ソン・ヘギョ)に撮り直しを頼む。
バイク便でテープは何とか放送に間に合うが、ジュニョンがスタントに無理をさせたせいで事故を起こし、スタントマンが入院する事態になり、それは入院費や見舞い金等、制作費が嵩むことにもなる。
落ち込んで、カラオケで電話にも出ずに帰宅したところ、恋人のカン・ジュンギ(イ・ジュニョク)からも「すれ違いばかりで、逢いたい時に会えない」と別れ話を言われる。
事故にはなってしまったけれど、良い映像を撮ろうとしてのこだわりだったので、ジュニョンは「自分は悪くない」と、始末書を書かされているジオに当る。
しかし、病院に見舞いに行ってやっと、自分の非に気づく。
ジュニョンは、新進気鋭のドラマ監督で、韓国初の女性ドラマ局長になりたいと思うような強気な女性で、思っていることをストレートにぶつけるタイプだ。
撮影で何度も取り直しをさせる時にも、「もう一度…」だけでなく「すみませんが…」の一言を言えば、こっちもプロなんだから気持ちよく仕事するのに、とカメラマンにも言われる。
そして、仕事が忙しいせいもあって、部屋の片付けがおろそかになるところもある。
ジオは大学の先輩であり、大学時代に自分から告白して半年間つきあったことがある。だから、KBUのドラマ局の同僚としても気が置けない間柄である。
ジオは中堅の監督で、面倒見も良く、上司からも部下からも頼られている。
地方に飛ばされていたヤン・スギョン(チェ・ダニエル)も、局に戻れることになると、真っ先にジオに連絡するほどだ。助監督として戻ってきたヤンは"クレイジー・ヤン"とあだ名され、誰も組みたい者がなく、局で一番の視聴率を取る監督ソン・ギュホ(オム・ギジュン)に預けられるが、スケジュール調整一つ出来ずに、女優から小言を言われたりする。そんな時、優しい言葉をかけるのがジオだ。
ジオもまた大学時代からつき合っていたイ・ヨニ(チャ・スヨン)と別れたばかりで、ジュニョンとよりを戻す。
でも、ジュニョンの家に行ってみれば、洗濯物を畳んでいなかったり、掃除もしていなかったりで、ジオが見かねてやってしまうし、料理もジオに作らせたほうが良いくらいだ。
ギュホは時代劇の撮影に入るため、キャストをオーディションする。新人女優のチャン・ヘジン(ソ・ヒョリム)に付きまとわれるうちに、結局抜擢する。
ギュホのチームのADとなったヤン・スギョンは、ベテラン女優オ・ミンスク(ユン・ヨジョン)の運転手までさせられる始末で、オ・ミンスクや国民の母と言われるパク・スジン(キム・ジャオク)らに、いびられながらも発破をかけられる。
ギュホは、ヘジンから「台本の解釈について聞きたいんです」と言われ、一緒に居るうちに関係を持ってしまう。
ギュホの父ソン・ドングンは、次期総裁戦に出馬をするような代議士で、世間体を守るためには息子(ギュホや弟ギュミン)の私生活にまで干渉する。ギュミンの事件も父には内緒に済ませた後、酒を飲んで気持ちを紛らわせようとするが、夜中に電話をして、来てくれたのはヘジンのみ…。「1回寝たからって、いい気になるな」と強がりを言いながらも、ギュホはヘジンのことを好きになっていく。
付き合い出して間もなく、ジュニョンは自分が監督のドラマ撮影に入り、女優のユニョン(ペ・ジョンオク)らとシンガポールロケに出掛ける。
ジオも作家イ・ソウ(キム・ヨジン)新作の打ち合わせに入り、ドラマ局長のキム・ミンチョル(キム・ガプス)やパク部長(キム・チャンワン)とも制作費や制作期間の調整に入るが、シンガポールにまで顔を出し、ジュニョンを幸せにする。
キム局長は妻子がありながら女優ユニョンを愛し、離婚して以来ずっと一人で住んでいた。ユニョンはキム・ミンチョルと駆け落ちの約束までしながら、その場に現れず、他の男と結婚し…離婚…、女優業をしながら事務所の社長でもあり、所属俳優との浮名も上がるくらいだが、本当は、病気の母を抱えて心淋しいことをキム・ミンチョルはわかっている。そして、母が死に一人になったことを機会に、プロポーズしようと考えている。しかし、離れて暮らしてはいるが一人娘のヌリ(キム・ジョンへ)は、離婚の原因のユニョンを嫌い、わざと問題を起こして父を困らせる。
ギュホのドラマ作家が、台本をストップしてしまい、放送開始までに3週分のストックしかないという問題が生じる。かろうじて制作発表にはこぎつけるが、以降の撮影は、Bチームを作って他の監督に協力してもらうしかない。ジュニョンは、ジオにやりたい仕事に専念してもらえるよう「私がBチームに入るわ」と告げる。
ギュホにとってのドラマは野望であり、ジュニョンにとってのドラマは、ギャンブルや浮気をする母親と大学教授の父の家庭不和からの逃避、ジオにとっては田舎に住む母が、農作業の傍らで息子のドラマを楽しみにしていてくれるから…とは言うが、実は貧しさからの逃避でもあり、現実ではできないこともドラマの中では可能だからだった。
ジュニョンと付き合い、ジュニョンの母にも会うようになると、結局のところジュニョンはお金持ちのお譲さんで…と、ジオは自分の貧しさに引け目を感じてしまう。
そして、別れる理由もはっきりと告げないままに、別れを切り出してしまい、元彼とつきあえと言う。ジュニョンが「どうして!」と怒って投げつけたグラスの破片が目に当たり、ジオは眼科に行く。が、最近視界がぼやけるようになった…と思っていたのは、緑内障のためだった。
目が見えなければ撮影もできないので、ジオは誰にも秘密にして、単発ドラマの撮影を続ける。失明すれば監督としての未来を断たれるという心配と、ジュニョンが元彼と会っていることへの嫉妬、また友人として会っている元カノ、ヨニの気持ちも分からず、ジオの心は波立つ。
ジュニョンも、二人の隠れ家だった海辺の家に行ってみたところジオとヨニが来ていて嫉妬したり、風邪をひいて早退するのをギュホから「それでもプロか!」と怒鳴られ、ジオからの別れの理由も分からず、荒れる。
そんな時、一緒に飲んで、泣き喚くもを黙って見ていてくれるのが女友達だ。ジュニョンにとっては、イ・ソウ作家やADのキム・ミニ(イ・ダイン)、女優のユニョン達である。
ジオの新ドラマの打ち合わせで海外に行くことになり、ジュニョンもイ・ソウから誘われる。キム局長、ユニョン、イ作家、チョン・ジオ、ヤン・スギョンと共に海外のコテージに泊まるが、ついてきたジュニョンにはすることがない。
プールでスギョンとふざけている(スギョンにキスされる)ところを、ちょうどジオに見られてしまい、よけいにバツが悪い。
キム・ミンチョルは、ここぞとばかりにプロポーズしようとユニョンを待つが、株価操作の疑惑をかけられたユニョンが急遽帰国し、プロポーズは果たせない。
ソウルに戻ったユニョンは、拘留されて検察の取調べを受ける。拘留が解かれても「家にはマスコミが来ているので帰れない」とイ・ソウの家に数日居候する。
イ・ソウは、ユニョンとキム・ミンチョルの仲を知っているので、同じマンションに住むキム・ミンチョルが顔も出さないことに怒るが、ミンチョルのほうも、元妻が再婚することになった為に、娘ヌリと一緒に住むことになり、ユニョンを恨む娘の手前、行かれなかったのだった。しかし、ソウの部屋でアルコール中毒がひどくなり、失禁もするまでになったユニョンに、一言も言わずに濡れたものの世話をしてやる。
ギュホの時代劇ドラマはクランクアップするが、ヘジンの事務所から、ヘジンとの交際に釘を刺される。ギュホは「最後に5日間だけ一緒に過させてください」と頼み、寺の修行に行く。5日の後「お前はいい女優なんだから、整形などせずに頑張れよ」と言って別れ、マネージャーに渡す(しかし、別れさせたのはギュホの父親の仕業だったことが、後にわかり、ギュホは父親に反抗する)。
ジオの目は悪化し、耳鳴りもするので入院する。
ジオの母(ナ・ムニ)は心配して病院にかけつけ「私はお前のドラマを見るのだけが楽しみで…」と言う。母親をタクシーに乗せて送ったあと、ジオも入院着のままジュニョンの部屋へ行き、改めて仲直りのキスをし「愛している」と告げる。
現場に戻ったジオは、クレーンカメラの操作タイミングを指示できず、カメラマンを事故に遭わせてしまい、目の病気が局全員に知られてしまう。局長命令で、ジオの残した撮影はジュニョンが担当することになり、ジオは実家に戻り、家業の酪農の手伝いをしながら、今後のことを考える。
ドラマを撮り終えたジュニョンは、ジオを迎えに行く。
たとえデスクワークになっても、局に残ってドラマ作りに携わって行きたいと考えていたジオに、局長は「撮影は、週3日までにしろよ」と言って、監督業を取り上げない。
…そして、1年後…
ソン・ギュホ監督とチャン・へジンの婚約会見があり、「ドラマで結ばれた二人」とテロップされる。
ジオとジュニョンも同棲しているが、ジュニョンは以前から言っていたように結婚しても仕事を続けるために、子供はいらないと宣言し、ジオに「次のドラマの作家とスターを私のドラマに譲って」と、家の中でも仕事の話をしている。
トイレから戻ったジュニョンが、突然"妊娠判定器"でプラスが出たと告げ、ジオはすわ結婚!と喜び、作家とスターを渡すことを了承する。と、とたんに「ウソよ!」と舌を出すジュニョン。
ドラマのように生きたいと思い、ドラマに現実を逃避する理想を描いていたジオたちが、いくら良いドラマを作ったとしても、自分たちが生きる世界が素晴らしいんだと気づいていくラストだったが、1年後の婚約会見で「ドラマで結ばれた二人」が出たとたんに、思わず「自分たちもじゃない!」と口にしてしまったほど、このドラマにはリアリティがあったと思う。
ドラマのように言いたいことを言われたり、掃除や料理がダメと思っていると、きっと実物のヘギョちやんはもっと良く見えるのだろうし、ヒョンビンも今までの御曹司の役から比べると、とても自然な気がして、ジオが持つ気遣いや優しさを実物と混同してしまいそうだからだ。
まぁ、若い主人公カップルのハッピーエンドはおいといて、ユニョンとキム・ミンチョルの長い時間に渡る愛情も、単なる肉欲的なものではなくて、精神的に護るとか頼るという関係になっているのが良く、もっと年上の女優オ・ミンスクやパク・スジンの結婚のあり方まで描かれていて、ドラマの人物に厚みがあると感じた。ミンスクは若いときに一度結婚したが、すぐ離婚して以来独身。パク・スジンは"国民の母"と言われているため、夫の浮気や息子に金を出して、家庭円満を装っている。共に重鎮の女優として、仲も良く、お互いの事情も知っているので、ジオが監督の高齢者夫婦の新しい愛を描いたドラマのオファーにも、スジンは相手俳優が昔恋人だったチョン・イルと知って、オ・ミンスクにオファーするように言う。
田舎で酪農をし短気でジオへの小言ばかり言いながら、実は息子が自慢の父(イ・ウォンジョン)と、父親と息子とのクッションになりながら、甲斐甲斐しく世話をする母(ナ・ムニ)というジオの両親や、浮気やギャンブルをする母(ナ・ヨンヒ)が嫌いで、コンプレックスを感じて大人になったジュニョン…というように、それぞれの育ちや両親への想いが、ただ単に人を好きになって結婚したいと思うのではない、そして自分の仕事のやりがいや理想と結婚に対する考えも表現されていて、ある意味で仕事を持つ30代女性(設定では20代後半ということだが、私の意識の中では30代40代の働く独身女性)の気持ちとしてのリアル感があった。
視聴率は取るが冷淡なソン・ギュホ(オム・ギジュン)監督は、新人女優に惹かれてしまうという点で、チャラい男なのかと思えば、その裏に父親の干渉があって別れさせられていたとか、彼の中にもある心の痛みが表現されていた。
特に、鼻でフンッと笑うとか、舌打ちをするような態度が多いのだが、キリッと口を結んだ時の口元に、何かを無理している感情が表現されていて、序盤は「こういう口の人じゃないのに?」と違和感があったのだが、ドラマの進行と共にギュホの父や弟との葛藤が描かれてくると、演技者として見直していった。
作家イ・ソウを演じたキム・ヨジンは、一番印象的な役はチャングムの済州島での医女なのだが、チリチリのボンバーヘアをかきむしりながら台本を書く脚本家像としても、とても演技派ですごかった。書かなきゃ…という時に限って、ガラス窓の汚れが気になったり、包丁を研ぎだしたりするところとか、書き上げると点滴を打つまで疲労していたり、人付き合いも良くていろいろな所に顔を出すのに、ネタになりそうなことがあるとすぐにメモをするところなどもとてもリアルだと思った。そうやって人とつきあい、物事に構うからこそ、文章にもできるのだと思うし、生活や人生の細かいところに気づかない人に、心に響くドラマが書けるわけがないだろう。
このドラマの作家ノ・ヒギョンは「花よりも美しく」を書いた脚本家で、今回のドラマでもかなりの調査もしたようだ。
それをどう映像にするのかは、監督に係わってくるわけだが、このドラマでは連続ドラマでありながら、1回毎にサブタイトルがついていて、ドラマの冒頭やラストにジオやジュニョンのナレーションが入る。ナレーションだから言葉だけなのだが、昔"俺たちシリーズ"で最後に詩的な表現が入っていたのと似ていて、そのナレーションだけでも、恋愛論や人生訓になっている気がする。
そして、やっぱりドラマという"彼らが生きる世界"ではなくて、現実に"私たちが生きる世界"ほど美しい世界はない…なんて、現実に結ばれちゃった二人のリアルさに敵うものもないと思えてくる。

0