
何年か前、エッセイを書いていて
応募するもボツになったもの
ここに残しておこうと思います!
だって私にとってはかけがえのない思い出だから…
「タイムカプセルに乗って」
遠い昔を懐かしみ、もしタイムカプセルがあったなら戻りたい…そう思うようになったのはいつ頃からだろう。
前へ前へと一心に進んでいた時には、そんなことを微塵にも思わなかった。未来にはきっといいことがいっぱい待っていて、その見えないなにかを求めて走ってきた。
夜空を仰げば、あらゆる可能性を秘めた満点の星が輝き、その星が全部自分の中に入ってきて、押しつぶれそうになったこともある。いわゆる妄想というやつだろうか。不可能なことなどひとつもないと思っていた若い頃のことだ。
これまで歩いてきた道で何も見つからなかった訳ではない。
全て順調とは言えなかったが、友との出会い、新しい家族もでき、生き甲斐を感じられる仕事とも出会えた。沢山の別れも経験したが、それは時の流れの宿命であり、私の運命だったと思う。
最近、なにげないことでひどく感動するようにもなった。
明けゆく朝の茜色に染まった空の様子や、夜空にぽつんと浮かんだ月の物言わぬ風情、木々の枝を揺らす風の音や、山深く静かに立ち続ける老木の姿などに、不思議に心がとらわれていく。
これまでもずっと目にしてきたものたちが、一斉に私に何かを語りかける。
「あなたは今まで何を見てきたの。あなたは今何をしているの。」と言っている。これまでの道を振りかえるよう促している気がするのだ。
だから最近は折りに触れちょっと立ち止まってみる。そして耳を澄ましてみることにしている。いろんな声に耳を傾けてみる。そうすると段々見えてくるものがある。自分にとって大切なものはなにか。これまで失ったものは何だったのか。
私はずっと前ばかりを見ているだけで、周りをみてこなかった気がする。人知れず傷ついた人や、寂しさの中に埋没した人のこと。古くさいと馬鹿にして切り捨ててきたものたちのこと。
孤独感や虚しさや深い悲しみをあまり味わうことなく、ぬくぬくと生きてきた私。
世の中を、家族を、友を批判的に見て、斜に構えて生きることが私のステータスだと信じてきた。
思い返せば楽しかった子供時代。無垢な心で家族を友を求めていた。些細なことが嬉しかった。
たとえば幼い頃家族全員で映画に出かけた時のこと。自営業だったため、商売用の軽トラックしかなくて、前の座席に両親、後ろの荷台に兄2人と私の3人の子供が乗り込んだ。車が走ったり止まったりするたびに、私たち3人の身体は荷台の上をごろごろ転がった。それが可笑しくて、お腹の底から笑いながら、道中を思い切り楽しんだこと。
夏の暑い日の思い出はこんなシーンが思い浮かぶ。大きなスイカを何個も井戸で冷やし、台所で切ってくれた母。その板の間にバケツを置き、周りに腰をかがめ、家族や従業員の人たちに混じって、そのスイカを私も喜んで頬張った。暑いからと言って、父は下着のシャツとステテコ姿、小さな私も白い綿のシュミーズ姿だった。みんなそうだった。恥ずかしくなんかなかった。スイカの種をペッペッとバケツに吐き出して、口の周りを真っ赤に染めて、大声でわっはっはって笑ってた…そんなことが昨日のことのよう。
期間はわずかだっただろうに、一番鮮明に覚えているのは銭湯に通ったこと。家にお風呂ができるまで、私たち家族は歩いて20分ほどの隣町の銭湯まで通っていた。途中駄菓子屋さんがあって、夜なのに、その店の前だけ煌々と明かりが漏れていた。その店は、まだ幼い私には宝物がいっぱい詰まった場所だった。口に入れるとすぐ溶けて甘い触感の残るたまごボーロと、海苔がいっぱいついた大きなお煎餅…それは大げさでなく当時の私の憧れだった。「お正月になって、お年玉をもらったら、絶対あのたまごボーロとお煎餅をいっぱい買おう。」と真剣に考えたりしたものだ。
帰らない日々だからこそ、美しく蘇る。荷台でごろごろするのは痛かっただろうし、もっとスマートにスイカを食べたかったかも知れない。冬の寒い日に銭湯に通う道は暗くてさぞかし寒かっただろう。でも、そんな不便さを打ち消してくれる暖かさに満ちていた気がする。格好をつけたり、人を疑ったり、自分を嫌いになったりしていく内に、そんな暖かさのあったことをすっかり忘れてしまっていた。
心のずっと奥底にしまい込んで、忘れさられた私のタイムカプセル。
最近の私はそれをひとつひとつ取り出して眺めている。
強かった父、優しく明るかった母、わんぱくな兄、そして無邪気な私。そんな家族の登場するドラマを繰り返し見ている内に、いつのまにか昔にタイムスリップしている。タイムカプセルは過去の残像の集まり。でも確かにそこに存在した時間の堆積。
積もった記憶の山を崩しては、思いにふける作業は楽しい。その作業の途中で気づくことが沢山あるのだ。
「私がこの目で見てきたことは一体なんだったのか。」
「私はこれまで誰に支えられ、誰に助けられて生きてきたのか。」
「私は今まで何を迷い何をしてきたのか。」
「私はこれから何を求めて、どう生きていきたいのか。」
そんななぞなぞを解くために、私は、タイムカプセルに乗って、しばらくひとり旅にでかけてみようと思う。

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